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 「次の方どうぞ…っと、冒険者か。一応危険物の持ち込みがないか、身体検査を…と言いたいがお前、何も装備していないじゃないか。…もしかして魔物に襲われて装備品を落としちまったのか?」


 「ええ、お恥ずかしい話ですが。故郷にいたころは村を襲撃してきたゴブリンを何体も倒してたもんで、少しばかり腕に自信があったんですがね。そんなわけで、分け前が減ってしまうのが嫌だったものでパーティーも組まずに一人でゴブリンを狩っていたんですが、さっき運の悪いことに団体で行動していたゴブリンに遭遇してしまいまして。装備品をかなぐり捨てて、命からがらこの城門まで逃げてきたんですよ」


 「なるほど、そりゃ運がなかったな。実際お前さんのように己の腕を過信してゴブリンにやられちまう新人冒険者は毎年何人もいるそうだからな。まぁ、生きてるだけ運がよかったじゃないか。これからは気を付けることだな。危険物の持ち込みもないようだし、通っても構わんよ」


 「ご忠告、ありがとうございます。では、自分はこれで。お仕事頑張ってください」




 …ふむ、思ったよりも簡単に人間の街に侵入することができたな。


 ゴブリンに擬態することができた時、もしかしたら人間にも擬態することができるんじゃないかと試したところ、思ったよりも簡単にできてしまった。他にも俺にとってなじみ深い犬や猫などの動植物にも擬態することができたが、オーガとかドラゴンとか、俺にとってあまりなじみのないものには擬態することができなかった。


 もしかしたら俺にとってイメージしやすいものにしか擬態できない仕様なのかもしれない。ちなみに人間に擬態したとき、その人間の顔は最もなじみのある前世の俺の顔であったからだ。もしかしたらドラゴンが俺にとって身近なものになればドラゴンにも擬態できるようになるかもしれないが、普段大空を飛んでいるドラゴンが身近な存在になるというイメージすら浮かばない。


 ただ擬態できるようになっても戦力的には現在とあまり変わらない。なぜなら擬態できるのはあくまで見た目だけであり、能力値は擬態前のスライムのままであったからだ。まぁドラゴンに擬態できれば、その見た目で相手がビビッて逃げ出してくれそうではあるが。


 そんなわけで、人間に擬態できるようになった俺は人間の街に侵入することにした。情報が欲しいからだ。戦闘力的に、町から遠く離れることのできない新人っぽい冒険者もたまにではあるが見かけていたため、人の住む町からそう離れていないという俺の考えは正しかったらしい。徒歩1日ほどの距離にこの街があった。


 すれ違った冒険者らしい恰好をした者たちの話を盗み聞きして分かったことだが、この町はウィルバートという名前で、トックハム子爵という人が領主らしい。残念ながらウィルバートという名前はおろか、トックハム子爵という名前も俺の記憶には存在しない。長年王都の商業ギルドに勤めていた俺が一度も聞いたことが無いなんてありえない。つまりここは、ライアル王国領内ではないのかもしれないといことだ。


 俺は行動に移った。たまたま近くにいた新人冒険者を殺し、衣服と城壁内に入るとき身分を示すために必要になるかもしれない冒険者のタグを強奪した。ただ、先程の様に城壁の中に入るときの検査はかなり緩く、むしろタグを持たずに一般人の振りをして入場税を払った方が変に声をかけられることもなかったかもしれない。


 ちなみにその冒険者の遺体は吸収して俺の糧になってもらった。前回はすでに死体であったため罪悪感がなかったが今回は自分が殺してその遺体を吸収したということもあり、わずかにだが思うところがあった。だが、彼も新人とはいえ冒険者。自分が殺されることの覚悟もしていただろうし、何より彼もまた魔物を狩ることで生計を立てていたのだ。逆に魔物に狩られて、その糧になることに文句は言えないだろう。


 その後人間に擬態した俺は顔を10代中ごろの、いかにも新人冒険者に見えるように改造した。装備品はあえて身に付けなかった。持ち物が多くなると、それだけ町に入るとき門番からの検査の時間が長くなるかもしれないからだ。


 上手く町に侵入出来た俺は、冒険者ギルドに向かうことにした。やはり情報を得るなら全国各地に支部があり、各国の情勢にも詳しいここが一番だと判断したからだ。今後のことも考えると、俺専用の冒険者のタグも用意しておく必要がある。流石に拝借したタグを使い続けるのは色々とリスクがあるかもしれない。念のため街の中を移動中、裏道に入り顔の形状を少し変え、強奪したタグも吸収した。


 魔物であるこの身で、魔物を狩ることも生業としている冒険者ギルドを利用するか…何とも言えない気持ちにさせられるな。などと考えごとをしていると冒険者ギルドに到着。


 冒険者ギルドに入る。受付のある奥に向かいつつ、その途中にある掲示板に貼ってある依頼内容の確認をした。残念ながら、やはり自分の知らない地域の名前しか書かれていなかった。唯一の収穫は今の大体の日付が分かったくらいか。自分が捕まった日から1年ほどが経過している。もしかしたらはるか未来に生まれ変わっていて、すでにギャバンや騎士団の連中が寿命で死んでいるのではないかという不安が何度か頭によぎっていたが、その心配がなくなりかなり安心した。


 窓口に到着した。自分の順番もすぐに来た。並んでいる人が少ないのは、あえてそういう時間帯を選んでいたからだ。昼前の中途半端な時間帯。この時間に利用者が比較的少ないというのは経験論だ。時間に追われていた生前も、少しでも時間を節約するために冒険者ギルドを利用するときはこのあたりの時間帯に利用させてもらっていた。


 などと考え事をしていると、いぶかしげな表情をした窓口のお姉さんに声をかけられる。一人の時間が長かったためか、つい物思いにふけてしまう時間が長くなったような気がする。


 「冒険者ギルドにようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」


 「あの、冒険者の登録をしたいのですが…」


 先ほどまでの表情が変わって、少し優し気な目に変わっていた。俺が緊張していてなかなか言葉が出なかったのだろう、そう想像したのかもしれない。


 「わかりました。ではこちらの用紙に書けるところだけでも構いませんので、ご記入をお願いします。代筆は必要…ではないですね。分かりました」


 話の途中であったが軽く手を振って、代筆は必要ないという意思表示をする。渡された用紙に情報を書いて提出した。といってもそれほど書けることは多くない。せいぜい名前と得意な武器ぐらいか。出身地すらも空白であったが特に何も言われなかった。冒険者という職業は一発を当てればデカいが、多くの人が大成することなくその命を散らしていくというやくざな商売で、万年人手不足なのだ。たとえ脛に傷があろうとも、少しでも多くの人員を必要としているが故の措置なのだろう。


 「ネスさんですね。登録料として銀貨1枚…はい、確かにお預かりしました。今からタグをお作りいたします。後ほどお呼びいたしますので、こちらの冊子をお読みになってお待ちください。分からないことがあれば、お声がけください」


 そういって渡された冊子を受け取り、椅子に移動する。ちなみにネスという名前は俺の昔のあだ名の一つだ。自分にとって全くなじみのない名前を使うと、気を抜いているときに名前を呼ばれても反応できないかもしれないからだ。


 渡された冊子を読むが内容がほとんどないに等しい。せいぜい、人間同士での争いは控えましょうとか、問題を起こせばランクを下げますとか、そういった基本的なことしか書かれていなかった。当然、問題を起こすことは俺も望んではいない。


 読み終わった冊子を窓口に返し、掲示板の前まで移動する。先ほどは流し見る程度しかできなかったが、今回は依頼内容にまで注視した。薬草の採取から、商隊の護衛まで様々なものがある。ギルドの依頼は早朝に掲示板に張り出される。やはりこの時間帯まで残っている依頼は、その内容に対していささか報酬が少ないと思う。


 もちろん俺がいた国と物価が違うということも考えられるが、ここまでくる道中、出店などに掲げられていた価格から判断するとそこまで差があるとは思えない…などと元商業ギルドの職員だったためかそういったことを無意識のうちに考えていると、背後から声をかけられる。


 「ネスさん、タグの用意ができました。こちら再発行にもお金がかかりますので、無くさないように気を付けてください」


 「ありがとうございます。つかぬことをお伺いしますが、討伐依頼が出されている魔物のいる場所などを詳しく教えてもらえませんか?できれば地図なども使って具体的に教えていただけるとより助かるのですが…」


 「申し訳ありませんが、ネスさんは登録したばかりの鉄級の冒険者。そして討伐依頼が受注可能となるランクは最低でも銅級からです。つまりネスさんの現在のランクでは討伐依頼を受注することができないのです。もちろんゴブリン程度の下級の魔物でしたらその討伐の証明となる右耳を提出することにより、報酬を受領することができますが、ゴブリンは非常に弱いため、よほど数がそろっていないと『討伐依頼』という形で依頼されるということはないのです」


 「すみません、言葉足らずでした。僕が討伐依頼のあった場所を知りたいのは、危険に飛び込むためではなく、危険を避けるためです。多少剣の腕に自信はありますが、現時点ではさすがに討伐依頼を出されるような強い魔物を相手にして無事でいられるとは思っていません。しばらくは城壁の近くで薬草採取や、ゴブリンを倒して日銭を得るつもりです。ですが運の悪いことに上位の魔物と遭遇してしまうこともあるかもしれません。そういったことの極力ないよう、討伐依頼のある強者のいる場所近づかないためにその場所を知りたいと思ったのです」


 「わかりました。あちらに地図がありますのでそこでご説明させてもらいます」


 そういって案内された場所に周辺地理について詳しく書かれた地図が貼ってあった。討伐依頼のある場所について聞いた情報を『眷属』に伝えて、その場所に急行するように命じた。強い魔物の遺体があるかもしれない。魔力的にも経験値的にも美味しいに違いない。有象無象のスライムに取られてしまうのは勿体ないのだ。もちろん冒険者が返り討ちにあっているかもしれないが、であるならばそちらを喰えばいいだけの話だ。共倒れが最も望ましいが、さすがにそれは高望みし過ぎか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 会話がものすごく事務的で、びっくりしちゃった 主人公の癖なのかもしれないけど、事務員と事務員の会話過ぎないか?って
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