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「ゴ、ゴルドス店長!おかえりなさい。それで、首尾はどうでし…おや?護衛の冒険者の姿が見えませんが」
「うむ、ここで話すのは少々まずい。奥にある商談室に行くぞ」
「分かりました」
「それで何があったのですか?冒険者の姿はおろか、持ち出した馬車すら見当たりませんが…」
「実はエルフを探す途中でオークの群れに遭遇してしまってな、冒険者は全滅。馬車は破壊され馬も殺されてしまい、いよいよ儂の命もここまでかというタイミングでアダマンタイト級の冒険者の方に助けられて、何とか生きながらえることが出来たのだ」
「アダマンタイト級の冒険者…まさか彼の有名なゼノン・パルドクス氏ですか!?」
「いや、あの方ではない。最近この辺りの来られた方でな、名前は…おっとそれは言わない約束であった。アブナイ、アブナイ。それでな、その方から内内にと話を持ち掛けられたのだ」
「話…ですか?それは一体どういう?」
「エルフ狩りに協力してくれるということだ。知っておると思うが、冒険者ギルドは基本的には、仮に相手が亜人であったとしても奴隷狩りを依頼として受理することは無い。だから今回も個人的な付き合いのある冒険者を、ギルドを通さず護衛として雇ったのだからな。それでその御仁が自分を雇わないかと話を持ち掛けてくれたのだ」
「なるほど、名前を伏せられたのはこの件に関して名を広めてほしくは無いという事ですか。確かにアダマンタイト級ほどの実力者を雇うことが出来れば、エルフを捕まえることなど容易でありましょうな」
「うむ、それで契約金の話になってな。その金額は金貨3000枚。捕まえたエルフ1人に付き金貨100枚の追加報酬だ」
「き、金貨3000枚?それは、いささか…ではなく、かなりお高いですね」
「しかし相手はアダマンタイト級の冒険者だ。地位もあれば名誉もある、ギルドにバレてしまえば何かしらの罰則があるかもしれん。その危険性を鑑みればその金額も妥当かもしれん。だが、こちらにも商人としてのプライドがある。エルフを一人でも捕縛することが出来なければ契約金を全額返金させるという、契約をスクロールで結ばせてもらった」
「なるほど、しかし1人捕まえた時点で先方が手を抜くという危険性もあったのでは?」
「もちろんある。だが向こうにもアダマンタイト級の冒険者としてのプライドがあろう。半端な結果を残せば、ギルドを通した依頼でなくてもそれに傷がついてしまう」
「確かにおっしゃる通りだと思います。追加報酬の金貨100枚なら問題ないでしょうが、契約金である金貨3000枚という大金どこから用意すればよろしいのでしょうか」
「この店にいるすべての奴隷を他の奴隷商に販売しろ。それでも足りなければこの店を抵当に入れて金を借りてこい」
「それなら用意できるでしょうが…」
「これはチャンスだ。仮に10人以上のエルフを捕らえることが出来れば店の規模を今の倍以上にすることも出来るだろうし、何よりもアダマンタイト級の冒険者と繋がりが出来るのだ。そう思えば安い買いものだ」
「分かりました、では早速現金を用意できるよう動きます」
「決して他の奴隷商に勘付かれることのないよう、慎重に行動しろ。邪魔が入れば面倒だからな」
「はい、それで期限はいつ程までに?」
「2・3日以内に出来るか?」
「厳しいでしょうが…何とかして見せます」
「頼んだ。ではそろそろ行くとしよう、こちらでも色々と裏工作しておかなければならないのでな」
「お気をつけて」
3日後無事に大金をゲットした俺はゴルドスの姿で少しばかりの騒ぎを起こし、門兵の記憶に残るような行動をした後、都市の外に出かけた。多分一生ゴルドスの姿に擬態することは無いだろう。その対価は金貨3000枚という大金であり、十分すぎるほどのモノとなった。




