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「個人的な考えを言えば、すぐに助け出すのはあまりお勧めできないかな」
「どうして?だって、早く助けに行かないと…どこか遠い場所に売られてしまうかもしれないし、そうなれば助け出すことがより困難なるじゃない」
「いや、すぐにエルフの子供たちが売りに出されるという事は無いと思う。これはゴルドスの記憶を読み取って分かったことなんだけどさ、エルフの奴隷というのは放っておいても高額で取引される最高級品だ。だったら付加価値をつけてより高く売った方が、より利益を出すことが出来る…と考えている奴隷商が多いんだ」
「付加価値?って何?」
「そのままの意味だ。畑仕事しかしたことのないような田舎出身の奴隷よりも、戦う力があったり、教育を施されている奴隷の方が高く売れるだろ?つまりエルフにも同じことが言えるわけ。隠れ里で生活していて、何も知らなかったエルフの子供よりも戦う力であったり…性奴隷にするつもりなら、そういった性に関する知識を学ばせたエルフの方がより高く売ることが出来るってこと」
「だったら、余計に早く助けに行かないといけないじゃない!」
「大丈夫…と言えるかは分からないけど、あくまでも与えられるのは知識だけだ。実際に手を出して傷物にしようものなら、価値を大きく落としてしまうからな。売りに出されるまでは丁重に扱われるはずだ」
「当面の間は大丈夫…ということね。でも話は戻るけど、だからといって今すぐ動かない理由にはならないんじゃない?」
「正直に言えば、助けようと思えば今すぐにでも全員助け出すことは出来ると思う。俺の能力があれば奴隷を縛る首輪の解除方法もすぐに分かるだろうから、大きな騒ぎになる前に全員助け出すことは難しくないはずだ。すでに潜入しているエルフ達の協力もあれば完璧だ。でもそれじゃダメなんだよ」
「何がダメなの?それでもう、おしまいじゃない」
「奴隷商の店先からエルフの子供たちだけ助け出されているのを見れば、だれが犯人かなんて一目瞭然だろ?それを見た人間がどう思うかな?」
「どうって…エルフの子供を誘拐しても、すぐに仲間が来て助け出されるから捕まえるだけ無駄…かしら?」
「そんな物わかりのいい人間だけなら人の社会はずっと生き易くなるだろうな。元人間の俺が思うに、エルフの子供を捕まえて置いておけば仲間であるエルフが助けに来る。だったら警戒を厳にすればその助けに来たエルフも捕まえることが出来るんじゃないか…かな。そうなれば利益は倍増、奴隷商人はウハウハだな。そしてエルフの里に近づく奴隷商と冒険者の数が増える…そこからは負のサイクルだな」
「そんな…だったらどうすればいいのよ」
「エルフが助けたと思わせなければいいだけさ。つまりこの都市にいるすべての奴隷を同時に開放する、木を隠すなら森ということだ。もちろん準備にはかなりの時間が必要になると思う。その間子供たちには苦労をさせることになるだろうけど」
「理解はできるけど、あまり気乗りがしないのは確かね」
「エルフの隠れ里と人間の都市にもっと距離があれば他にやりようがあったんだけどな。正直、何でこんな人間の都市に近い場所にエルフの里があるんだ?」
「逆よ。私たちエルフの祖先が先にこの場所で里を築いたのが始まり。当然それ以前には何もなかったからこの辺りには魔物がたくさんいたらしいんだけど、当時のエルフのみんなが協力して数を減らしていったの。相当苦労してようやく安心して暮らせるようになった頃、人間達が後からやってきてこの場所に街を作ったのよ」
「うわぁ、当時の人間達がエルフのことを知っていたかどうかは分からないけど、後から来て楽に開拓をした人間達が、今現在エルフを奴隷にして連れ去っているのか。聞いているだけでも腹の立つ話だな」
「全くよ。当時のエルフの里長もどうして人間達を排除しなかったのかしら」
「人間の強みは群れることにあるからな。その人間達を排除しても他の人間が来るだろうから、意味がないと判断したのかもしれないな。もしくは協力して魔物を倒せばエルフも楽が出来ると思ったのか。少なくとも未来の子孫がその人間達に奴隷にされるとは思ってはいなかっただろうね」
「はぁ、愚痴っていても仕方ないわ。明日、潜入していた仲間たちと話をつけてくるわ。貴方はどうするの?」
「先立つものは金だな。せっかくだからゴルドスに擬態して、奴の持つ資産を現金化して子供たち救出の軍資金にしようと思う。その為の準備をするつもりだ」
「そ、頑張ってね」
やらなければならないことがたくさんあるが、とりあえず『精霊樹』の実が無くなるまでに何とか片をつけれるといいな、と思った。




