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眷属が『精霊樹』から吸収する魔力量を測量した結果、『精霊樹』にとりついて魔力を吸収してもよいと許可をもらった個体数は3体という事になった。
「もちろん、お主が儂らエルフに対してそれなりの働きをするのであれば、その後の交渉次第ではこの数を増やしても構わんぞ。とりあえず今回のこの数は、エリーたちを助けてくれたことに対する報酬ということじゃな」
「ええ、ご期待に応えられるような結果を出して見せますよ。それと提案なのですが、この里周辺に俺の眷属を配置して、里の警備の一部を俺に委ねてはもらえませんか?今回の様に予期せぬ事案にて里の平穏が崩れてしまう可能性も十分にあるでしょうからね。それに俺の眷属はリアルタイムで情報をやり取りできる、『念話』を使うことが出来ます。エルフの警備の方々と協力すれば、里の警備体制はより盤石になると思いますが」
「確かにお主の念話はかなり有用じゃが、防衛の一部を他所の者に任せるというのは少々な…お主のことを信用していないというわけではないが、少し考える時間をくれんか?里の者達と話もしてみたいしの」
「もちろん構いません。子供たちを無事に救出して、里の方々の信用と信頼を手に入れて見せますよ。あ、出来れば報酬は魔物の遺体でお願いします。わざわざ倒した魔物の遺体を運ぶのはかなりの労力が必要でしょうから、魔物を倒した位置情報を教えて頂ければ、こちらで現地に赴いて吸収させてもらおうと思っています」
「うむ、了解じゃ。ん?それじゃったら、わざわざ儂らの許可を得んでも勝手に里の周辺に巣くっておいて、里の者が倒した魔物を勝手に吸収するのと大した変わりはないんじゃないのか?」
「流石に勝手に里の周辺に巣くうというのは、里に住まうエルフの方々の心象を悪くするのでは?と思った次第でありまして。それに、どのみちやることはほとんど変わりありません。どうせなら恩着せがましく『防衛の一部を託されている』ということにしておけば、仮にエルフの方々に手を借りたい事案などがありましたら、遠慮なく借りることが出来るという思いもあります」
「ずいぶんと正直に申すの、お主は。少しは言葉を飾ろうとはせんのか?」
「それは相手によりますね。俺程度の若輩者がローゼリア様を謀かろうとしても、すぐに見抜かれてしまうと思います。だったら初めからすべて正直に話して、心象を少しでも良くした方が上手く事が運ぶのではないかと思った次第であります」
「ま、ええじゃろう。今回の件が無事に解決したら前向きに考えておこう。何なら他のエルフの里の長も紹介してやろうか?」
「いいんですか?」
「あくまでを紹介するだけじゃがな。その後の交渉は自分で何とかするのじゃな。契約の魔法で行動をある程度縛られるかもしれんが、お主はあんまり気にせんのじゃろ?」
「まぁ、俺の目的はあくまで復讐を成し遂げることなので、その過程がどうなろうがあまり気にしてはいません。まぁ、復讐を無事成し遂げた後、その眷属がその後どのような身の振り方をするのかは本人?に任せると思うので、契約の継続などについては各里長との話し合いで決めたいと思います」
「分かった、その辺りのことも事前に話を通しておこう。とりあえずは儂の本体がいるエルフの国で『世界樹』を警備しておるハイエルフ達に話をしておく。結果が出るまでに多少時間はかかると思うが、構わんか?」
「もちろんです。その間に子供たちの救助をすれば、時間を無駄に浪費することもないでしょうしね」
数日のうちにエルフの里で子供たちを救出するための準備を整え、人間の都市に向けて出発した。都市の名はマリスレイブ。人口は50万を超え、アダマンタイト級の冒険者が拠点にしているほどの大都市である。
リスクは当然大きいが、リターンはエルフ達の信頼という非常に大きなものだ。命を懸ける価値がある…とまでは言わないが、何とかこのチャンスをものにしたい。
 




