84
今回ユーリさんが捕獲してきたスライムは全部で3体いた。これはとりあえず用意したという事であり、必要となれば又捕まえて来てくれるという事になった。早速眷属化しようとしたところで、待ったがかかってしまう。
「ちょっといいか?一応このスライム達を観察してもいいかの?眷属化したあとのものと比べたいのじゃ」
「別に構いませんよ」
「すまんの。……ふむ、スライムをこんな注意深く観察したのは初めてかもしれん。確かに自我というものは一切感じられんの。害もなさそうじゃし、儂らエルフを含め人間達に一切襲われることが無いというのも納得できる…ほれ、返すぞ。眷属化してくれ」
「分かりました。では早速…」
手の擬態をわずかに解き、そこからを人指し指、中指、薬指のあたる部分から触手を伸ばす。それをスライムの核に突き刺し自身のスライム細胞を移植する。しばらくすると目の前のスライムとパスがつながったような感覚がする。成功だ。すでに何百回と繰り返した行為であり、淀みなく行うことが出来る。
「終わりました。これでこのスライム達は俺の眷属です」
「ふむ、何というか、あっという間に終わってしまったの。スライムが原生生物に近い生態であるからなのか、自我の薄い生物であるからなのか、はたまた…いや、情報が少なすぎる。ここで考えても答えはでんじゃろうて。ほれ、お主も何か言うてみぃ」
そう言って先ほど俺が眷属化したスライムの一体に話しかける。
「何かって…そういえば、ユーリさん里の外近くまで俺…スライムを捕獲しに出ていたそうですが、冒険者や奴隷商などの様子はどうでしたか?」
「相変わらず結界の外をうろうろ捜索していました。すでに結界の揺らぎは修復しているのでこれ以上エルフを捕まえることは不可能なのですが、なかなかあきらめの悪い連中のようです。それにしても、こうして普通に話すことも出来るんですね。スライムが流ちょうに話しているのは何とも不思議な光景です」
「全くじゃ。お主の中に入っておる意思は、先ほどまで本体におった奴と同一の者なんじゃよな。やはり先ほどまでは進化した種であったから、感覚的に多少能力が物足りないとか、そういった違和感とかもあるのか?」
「違和感は…あまりありませんね。その辺りはこのスライムの元々の意思の影響があるのかもしれません。これまでの経験から私にも個性のようなものが出始めるのかもしれませんが、今のところは特にそういった予兆はないですね。ただ、つい先ほどまで自分であった者をボスと呼称するのは少々恥ずかしいです」
「いや、別にボス呼びを強制しているわけじゃないし、先ほどまで俺だったならそのことも周知のはずだろ…っと、もしかしてすでに個性のようなものが出始めているのか?」
「かもしれませんね。ただ、やはり自覚はありませんので何とも言えませんが…」
「ふむ、面白いの。個人的には色々と研究してみたいとは思うが、思念体では出来ることが限られてしまうのでな。警護の任期が終わり、本体が戻ってきたときに研究させてもらってもいいかの?」
「報酬によりますね。あと、出来れば眷属を犠牲にはしない内容でお願いします」
「安心せい。儂もそこまで非道ではない。さて、眷属化も済んだようじゃし、『精霊樹』のところに向かいお主の眷属がどれほどの魔力を吸うのか見させてもらうことにしよう」
「はい、では行きましょうか。あっと、その前に他の眷属には別に指示を与えておこうと思います。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わんが、何かあるのか?」
「ええ、せっかく色々と検証ができそうなので、タイラント・ビートル(タイラント・センチピード?)の死体だけを吸収させる個体、麒麟の素材だけを吸収させる個体、『精霊樹』の魔力だけを吸収させる個体といった具合に差別化していこうかと。これほどの機会またとないでしょう、もしかしたら特殊な進化をする個体が出るかもしれませんし」
「なるほどのぅ。ま、好きにするとええ。ただ、面白そうじゃし、結果は教えてくれんか?」
「もちろん、構いませんよ。ただ、気になったことなどがあれば教えて頂けると助かります。何がきっかけで特殊な進化する種が生まれるのか、私にもまだ分かりませんので」
ざっくりとした指示を出したのち、『精霊樹』の場所に向かう。と言っても目と鼻の先ではあるのだが。『精霊樹』の圧倒されそうな気配を前に、この存在の力がわずかでも自分のものになりそうなことに高揚感を感じてしまう。




