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 全体の姿は鹿に似ているだろうか。体高は成人男性より一回り以上高く、体長はその倍はあるだろう。顔はドラゴンに似ていて、獅子の尾と蝙蝠に似た羽を持ち、頭には雷を思わせるような攻撃的な角があり、体には爬虫類に似た立派な鱗が生えている。


 『麒麟』だ。冒険者ギルドに置いてあった魔物に関する著書で読んだことがある。その本の筆者も伝聞でしか情報を知ることが出来なかったのか、挿絵にあったそれは実物とは小さくない差異があるようだ。はっきり言って実物の方が10倍は怖い。


 俺はこの幼女に嵌められたのか?この『麒麟』の贄にするためにここまで連れてこられたのか?契約を結ぶといったのも俺を喜ばせておいて奈落の底に突き落とす、その落差を見て楽しむために俺に嘘を語ったのか?くそっ!俺はどこで間違えたんだ…


 「………おいっ!おいっ!いい加減戻ってこい!何を呆けておるのじゃ!」


 「…っは!俺はいったい何を…」


 「それはこちらのセリフじゃ。『麒麟』の前に連れてきたと思ったら、いきなりフリーズしてしまいおってからに…」


 「あの、ローゼリア様?普通の人…じゃなくて、普通の魔物?なら『麒麟』ほどの強者を前にしたら、強い恐怖に襲われて、現実逃避してしまうのも仕方のないことなのでは?」


 「そうか?それは悪いことをしてしまったかの。ゼロよ、安心するが良い。こ奴は子供のころ、森で一匹でいたのを儂が保護して育てたのじゃ。性格も温厚じゃし、儂の許可なく襲ったりはせんから安心せい」


 『麒麟』を保護して育てた、か。多分…いや、確実にすごいことなのだろうが、すごすぎて想像が追い付かない。そういえば、何故俺を『麒麟』のところまでに案内したのだろうか。まさか自慢したいだけ…という事はないだろう。


 「確かこの辺りに……おっ!あった、あった。これじゃ、これをお主に渡したいと思っておったのじゃ」


 何やら奥でごそごそとしていたようだが、そう言って渡されたのは…鱗?後、爪や角のようなものもある…と、この独特な角の形状、見たことがある。いや、現在進行形で見ているというのが正しい表現だろう。


 「お主は確か、魔物の死体を吸収することで経験値を得ることが出来ると言っておったな。ならばこういった魔物から取れた素材からでも、経験値を得ることが出来るのではないかと思ってな」


 なるほど、その可能性は十分にある。実際こうして見ただけでも、これらの素材から魔力を感じとることが出来る。これまでだって死体の一部からでも経験値を得ることが出来ていたのだから。しかし一つ疑問がある。


 「あの、これ本当に頂いてもいいんですか?保管されていたようですが、別な使用目的があったのでは?」


 「いや、自然に剥がれ落ちたものを単に捨てるのが面倒…ゲフン、ゲフン。こういったこともあろうかと、とっておいたのじゃ。遠慮なく吸収するが良い。我らエルフには魔物の素材から武器や防具を作るといった習慣は無いのでな」


 そうか、捨てるのが面倒くさかったから保管してあったのか。それなら遠慮することはない。早速と思い、許可を得て鱗の一つを手に取り、吸収する。


 ……これはすごい。赤子の握りこぶしほどの大きさの鱗を吸収しただけで、ゴブリン一体を吸収したときと同程度の経験値を得ることが出来たようだ。それに魔力の質が素晴らしい。というか、はっきり言ってかなり美味い。こんなの上質な魔力ばかり吸収していたら、ゴブリンの死体を不味くて吸収できなくなってしまいそうだ。


 「どうやら気に入ってもらえた様じゃな。素材はまだまだある、いくらでも…いや、すべて持って行ってもらっても構わんのでな」


 「ありがとうございます。あの、疑問に思ったのですが『麒麟』という戦力があるのなら、この里の平穏を脅かすような人間の冒険者ごとき、一瞬にして消し炭に出来るのではないでしょうか?」


 「まぁ、この森の周辺にいる実力の冒険者ならば、それも容易じゃろうな。じゃが仮に、何名か取り逃してしまい、生き残りが出てしまえばどうなると思う?」


 「……恐らくは、その情報を持ち帰り街の権力者に『麒麟』の存在を伝えるでしょう。そしてその権力者は国の上層部にそのことを伝え、『麒麟』の価値を知る者がいればその力を己がものにしたいと考えても不思議ではありません。そうなればミスリル級やアダマンタイト級、下手したらオリハルコン級の冒険者を雇い入れて『麒麟』捕獲にあたるでしょう。そうなると、これまで以上の被害は必須…申し訳ありません、考え足らずでした」


 「気にするでない。儂も一度『麒麟』の力を使って何とか現状を打破しようと思っておったが、流石に痕跡を一切残さずにそれを実行するのはかなり難しいという結論に至ったのじゃ。儂の『本体』が動くことが出来れば、このような些事で頭を悩ますようなことはなかったじゃろうが…」


 「…『本体』?」

 

「おっと、そういえば言っておらなんだか。お主も疑問に思ったのではないのか?エルフの里長が儂の様なロリィな幼女であることを」


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