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「なるほどな。無実の罪で殺されて、目が覚めたらスライムになっておったと。それからは、自分を貶めた連中に復讐するため力を手に入れるため色々と努力しておるのか。一応念のために聞いておくが今回の一件、人間に味方しようとは初めから思わなんだのか?」
「正直に言いますと、この度の事件に関しては人間に味方しても俺にメリットはあまり無いと思ったからです。なぜなら人間達の目的はエルフを生け捕りにすることであり、そのことに協力しても、その報酬として多少の金銭を得ることは出来るでしょうが俺は強く…多くの経験値を得ることが出来ないと思われます。ですが、エルフの皆様は違います。攫われた子供たちを救うために必要とあれば、人間を殺すことはいとわないでしょう。それに協力すれば、多くの経験値を得る機会に恵まれると思ったからです」
「ふむ、納得した。単に義心に駆られて~なんてことを言われるよりも余程納得することが出来る理由じゃな。それで、その対価としておぬしは何を望む?」
「俺の眷属の何体かを『精霊樹』に流れる魔力を吸収させてもらえませんか?俺は眷属と常にパスのようなもので繋がっていて、魔力すらも共有することが出来るんです。後、今後エルフの方々に討伐された魔物の死体の不要な部位などをを頂ければ…」
「『精霊樹』に集まり、エルフ達の討伐された魔物の死体を引き渡すのは何も問題は無いな。むしろ遺体を処分する手間が減ってこちらとしてもありがたいぐらいじゃ。しかし『精霊樹』に流れる魔力を吸収させてほしいとは…お主の眷属がどれほどの量の魔力を吸収することが出来るか分からんから、何とも言えんの」
「もちろん、その件に関しては追々は話し合いにて内容を詰めさせてもらいたいと思います。ですが、そちらにとって有益になる点もあるかと思われます。先程『精霊樹』を見させていただいたときに気が付いたことですが、魔物ではない、普通の害虫も多く『精霊樹』に集っているように見受けられました。仮に私の眷属を『精霊樹』の魔力を吸収する許可を頂けるのでしたら、当然その過程において邪魔となる害虫の駆除もさせてもらいます」
「なるほどな、そちらが一方的に利を得るのではなく、こちらにもちゃんと利があることを分かりやすく説明してくれて、非常に助かったわ。うむ、分かった。お主との契約を締結しようではないか」
「ローゼリア様!よろしいのですか、相手は魔物ですよ?いや、確かに信用できる相手かもしれないと初めに進言したのは私ですが…」
「魔物とて、これほど高い知性を有しておるのじゃ、何も問題は無かろう。その証拠にこ奴からは警戒心は伝わってくるが敵対心は伝わってはこん。それにな、エリー。高い知性を有しておるからと言って、本当にその相手を信用することが出来るのか?人間を見てみろ、確かに知性はあるかもしれんが理性というものが感じられん。無論すべての人間がそうであるとは言わんがな。ただ、金儲けの為なら我らエルフのことを商品としか見ておらん人間が多いのもまた事実じゃ。じゃから儂は相手が例え魔物であっても色眼鏡にかけず、当人を見て判断することにしておる。そして信用することが出来ると思ったからこそ、この契約を締結する気になったのじゃ」
「…分かりました。差し出がましいことを言って、申し訳ありませんでした」
「気にするでない。お主が里のことを考えて行動しておるという事はよく分かっておる。そんなお主の進言を、差し出かましいことと思う事は無いのじゃ。さて、待たせてしまったな客人よ。いや…っと、そういえば、おぬしのことを何と呼べばよいのかの?」
「とりあえず『ゼロ』でお願いします。『ネス』や『マジク』の名は俺が人間の町で活動するときに使いますので」
「了解じゃ。それで、ゼロ。今更じゃが、先ほどはお主の許可なく契約の魔法をかけてしまって悪かったの。その気持ちと言ってはなんじゃが、お主に渡したいものがある。付いてまいれ」
ここまで何とかこぎつけることが出来た。と言うか何だよ。「警戒心は伝わってくるが敵対心は伝わってはこん」って。相手の悪意とかも感じ取ることが出来るのか?そういった魔法があるのか、はたまた長い人生経験から来る直観なのか。
色々と分からないことだらけではあるが、この幼女に逆らってはいけないという事だけは重々理解した。いや、させられた。何とか俺の価値を認めさせて、今後とも協力関係を築いていきたいものだ。
それにしても、俺に渡したいものか…。正直契約魔法をかけられたのも、話がスピーディーに進んだので俺からしたら却ってありがたいものだった。その上謝罪の気持ちまでいただけるとは。当初予定していた流れとは大きく違うが、俺にとっていい流れなことには変わりない。このままの流れで進んでほしいと思った。




