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進化からおよそ1週間。新しい体に慣れてきたこともあり、大物を狙うことにした。対象はもちろんゴブリン。単体、もしくは少数で行動しているものではなく、部族単位で生活している団体さんを丸ごと狙うことにしたのだ。
ゴブリン達の生活している洞窟に正面から堂々と侵入。ちなみにこの住処は、適当なゴブリンを尾行していたらすぐで発見することができた。入口の警備をしているゴブリンも一応いたが当然のようにスルーされた。すれ違いざまに触手を伸ばして攻撃する。不意打ち成功。少し鮮度が落ちてしまいもったいない気もするが、今はその死体を放置して中へと進んでいく。
狭く薄暗い洞窟の中は、ゴブリンにとっては生活することに支障はない。しかし冒険者にとっては厄介なことこの上ないだろう。そのためゴブリン達の小さな集落は、こういった洞窟や薄暗い森の中によくつくられている。冒険者たちにとって厄介な場所ではあるが、俺にとっては進化した影響か、ほんのわずかな明かりだけでも十分に周囲の状況を確認することができる。探索に問題が出ることはない。
などと考えている間も何体かのゴブリンとすれ違い、その度に命を刈り取っていく。途中ゴブリン達のゴミ捨て場のような場所に出た。いくつかの分岐点があったので、おそらくは道を間違えてしまったのだろう。流石に迷うことなくゴブリン達の長のいる場所にたどり着けるとは思っていない。
そこには、ゴブリンたちの食い残しであろう動物の死骸や糞尿が集められており、その場所にいるだけで気分が悪くなりそうなほど汚い場所であった。しかしそのような過酷な環境でありながら文句ひとつ言うことなくせっせと働く一つの影。間違いない同族のスライムさんだ。
恐らく、彼?の勤勉に働く姿を常日頃から見ていたゴブリン達は、スライムという種族は自分たちにとって非常に有益な存在であることを強く認識していたのだろう。もしかしたら、俺を新たな清掃要員とでも思ったのかもしれない。そのおかげでここまで楽に来ることができた。
この集落が崩壊したとき彼?はどうするのだろうか。この洞窟を飛び出して新しい世界へと飛び立つのもわるくないだろう。世の中には動物の死骸や糞尿よりももっと美味しいものにあふれている。この集落を崩壊させることによってそれを促すことが、俺が彼?にできる最高の恩返しかもしれない。多分、いやきっと…
寄り道をして時間を無駄に消費してしまったためか、さらに奥へ侵入すると、生き残ったゴブリン達は周囲の異変を感じ取り迎撃態勢を整えていた。かなりの数のゴブリンがいる。それにどこからか拾ってきたのか、感じのよさそうな弓矢を装備していた。この狭い通路で弓矢を連続して打たれれば、仮に相手が冒険者であっても苦戦は免れないだろう。
しかし、いや、やはりというべきか襲撃してきた相手がスライムであるという考えには至っていないらしい。警戒されることなく侵入者を待ち構えているゴブリンたちの横を堂々と移動できてしまう。あえて今、ここでは倒さない。流石に戦闘準備を整えているこの数を正面から一度に相手にするのは骨が折れそうだし、殺り残しも出てしまうだろう。襲撃者がスライムであるという情報を、これから向かうボスに与えてやる義理はない。
一応周りを警戒しながら奥へと進んで行く。ようやくこの部族の長らしきゴブリンのいる場所にたどり着いた。他のゴブリンよりも一回り大きい。成人男性に匹敵するほどの大きさだ。装備もなかなかいいものを持っている。多分ゴブリンの上位種『ゴブリン・リーダー』だ。周囲を他のゴブリン達が警護するように囲んでいる。
しかしやることは今までと変わらない。さりげなく近づいて、鋭く尖らせた触手で頭を突き刺した。流石にただのゴブリンよりも強い抵抗を感じたがそれだけだ。今までにないほどの大きな経験値が入ってくるのが分かった。
『ゴブリン・リーダー』が殺されるのを見て、他のゴブリン達が混乱しているのが手に取るようにわかる。何故スライムが?とでも思っているのだろう。わざわざ混乱が収束するのを待ってやる気はない。態勢を立て直そうとしている優秀そうなやつから、1体1体確実に屠っていく。
すべてを狩り殺した頃にようやく異変を感じ取ったのか、道中で迎撃態勢を整えていた奴らがやってきた。すべてではない。様子を探るために少数を派遣したのだろう。この程度の数なら俺の敵ではない。作業のように刈り殺していく。その後、元来た道を戻って、残っていた奴らも殺戮した。何体か取り逃がしてしまったことは多少心残りではあるが、ゴブリンは人間のように情報を共有するということはない。スライムがゴブリンの部族を殲滅したという情報が広がることはないだろう。
しかし念のため、ここのゴブリンを吸収し終えたら狩場を少し移動することにするか。もちろん用心のためもあるが、最近このあたりのゴブリンを狩り過ぎたためか、ゴブリンとの遭遇率が低下してきていたのだ。
それに『ゴブリン・リーダー』をあっさりと殺せたことも自信につながった。仮に敵対生物に遭遇しても、そう簡単にはやられはしないだろう。