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 「悪いが先に、この子を里の診療所まで連れて行く。里長のところに行くのはその後だ」


 「分かった。まぁ、無事にここまで辿り着いたんだ。今更里長に会うのが数時間遅れようが気にはしないさ」


 里の中を移動する途中、奇異の目にさらされることはあったが里のエルフに絡まれるという事は無かった。やはり事前に嵌めておいたこの首輪が役に立ったのかもしれない。


 ほどなくして診療所と思われる建物に着く。それほど大きくない里だ、恐らくはこの診療所の主人とも顔見知りなのだろう。勝手知ったるなんとやら、診療所内に明かりがついていないにもかかわらず、何のためらいもなく扉を開き奥へと入り中にあったベッドに少女を寝かせる。しばらくしてようやくこの診療所の主人らしき青年の男がこちらにやってきた。


 「すまない、カール。勝手に入らせてもらったわ」


 「何だエリーか…って人間!?なんでここに人間が……そうか、エリーが捕獲してきたのか。なるほど。確かに人間の捕虜から子供たちの情報を入手することが出来れば、色々と都合がよさそうだな。成長したじゃないかエリー。昔のお前なら頭に血が上って、後先考えず皆殺しにしていたところだ」


 「と、当然よ。私だって成長しているのだから。おい、貴様!大人しく子供たちの情報を吐け!」


 こ、こいつ…自分の都合の悪そうな話をされそうになったからって急に俺に話を振りやがって…。無視したいところだが、この男に不審がられて騒ぎを起こされても面倒くさい。かといって、こんなところで出すほど俺の持つ情報の価値は低くない。ならばとるべき手段は一つだ。


 「エ、エリー、様ハ、世界一美シイ。エリー、様ハ、トテモ、行動力ガアリ、皆カラ、頼リニサレテイル。エリー、様ハ、トテモ努力家デ、素晴ラシイ、ゴ主人様、デス…」


 「………エリー、お前……。いくら何でも、人間の捕虜にこんなこと仕込まなくても…」


 「…なっ…!違っ…!私はこんなこと言えなんて命じていない!」


 「…うんうん、そうだよな、そんなこと命じてないよな。…どうやら君は少し疲れているようだ。里長のところに報告を終えたら、自宅に帰ってゆっくり休むといい」


 憐れむような目を向けられて、居てもたってもいられなくなったのか診療所から逃げるように飛び出した。いや、憐れむような目を向けられたのは俺も同じかもしれない。後を追うようについていくと鬼のような形相で俺を睨んでくる。だが、知らん。先に振ってきたのはお前の方だ。俺は悪くない、多分、きっと。


 多少のアクシデントはあったが、ようやく里長のところに向かうことになった。


 里長の屋敷は『精霊樹』の近くに建てられていた。自宅の窓や庭先からこの絶景をいつでも楽しむことが出来るのか…人里であるなら、地代だけでもかなりの額になりそうだ。っと、いつの間にか俗物的な考えをしてしまった。前世の癖はなかなか抜けそうにない。


 「私は先に入って里長と話をしてくる。貴様は外でおとなしく待っていろ。間違っても先ほどのようなことをすれば…」


 わーい、呼び方が『お前』から『貴様』にジョブチェンジだ。ただし俺は悪くないはず。


 「しねーよ。大体さっきのことだってあんな形で話を振られなきゃ、ああいった態度はとらなかったさ」


 「ぐっ…。減らず口を…」


 流石に彼女も多少は悪いと思っていたのか、それ以上の追及をしてくることはなく家の中へと入っていった。暇な時間が出来てしまったな。流石に里の中で許可もなく能力の鍛錬をするというのも気が引ける。眷属と連絡でも取っておくか。


 『えー、こちらゼロ。サーチ・スライム、聞こえているか』


 『はい、聞こえています。ご用件は?』


 『いや、暇な時間が出来てしまってな。少し暇つぶしに付き合ってもらいたいんだが…そういえば眷属は方向感覚が狂うことなく、俺の後をついてくることが出来ているのか?』


 『ええ、問題ありません。エルフの里の結界はどうやら私たちスライムにも効きにくいようですね。それに加えて、私には高い索敵能力があります。ゼロの位置を見失うという事はありえません。ゼロの後を追って里の中まで行った方が良いですか?』


 『いや、しばらくは里の外で情報収集にあたってくれ。それで里の周辺にどれくらいの数の冒険者や奴隷商が集まっているか分かるか?』


 『申し訳ありません。私の移動速度だとまだ里との距離があり、詳しいことは分かりませんが…すでに私の索敵範囲に入っている数だけでも、数十人はくだらない数の人間が集まっているようです。人間達が里を覆うようにばらけて捜索していることを考えますと…全体で千人近くの人間がいてもおかしくはありませんね』


 『まぁ、エルフ一人捕まえるだけでもかなりの利益が見込めるからな。欲望に駆られて、それだけの数の人間がいてもおかしくはないか…分かった、ありがとう。引き続き情報収集にあたってくれ。余裕があるなら、孫眷属達に冒険者達の会話の内容とかも盗聴させておいてくれ』


 『了解です』


 残り2体のサーチ・スライムのうち1体はゴルドスが店を構えている都市に向かわせており、残りの1体は『交易都市メウリージャ』に向けて先行させている。


 さて、お次はどちらと念話をしようかなと考えているとエリーが屋敷から出てきた。


 「里長からの許可が出た、ついてこい」


 ようやくか。だが俺の戦い?はこれからが本番だ。相手は長命種であるエルフの長だ、決して気を抜くことは出来ない。気を引き締めておかねば。


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