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 奴隷商に触れ、『同化』を発動する。瞬時に死体が消え去ったことでエルフの剣士が驚いているのが見えたが、どうせ他言することは出来ないので放っておくことにする。


 記憶を探ると……どうやら知り合いの奴隷商がこの先にある森の中でエルフを捕まえたという話を聞き、自分もそれに乗っかろうとすぐさま冒険者を雇い、はやる気持ちを抑えきれず自ら出張ってきたということか。


 その奴隷商も知り合いの冒険者から目撃情報を聞いただけであり、なぜ普段結界の張ってある里に引きこもっているエルフを見つけることが出来たのか、その奴隷商も知らなかったそうだが、大事なのは結果(エルフを売却することで得られる利益)でありそんなことはどうでもよかったそうだ。


 それにしても、こんな違法な方法で亜人とはいえエルフを奴隷として販売しようなんて、余程『教会』の影響力の強い都市に住んでいるのかと思えば、どうやら裏で一部の金持ち相手に売買しているようだ。


 とはいえ、すでに領主である貴族に鼻薬をきかせることで非合法とはいえ摘発される心配がなく、精力的に活動することが出来ているらしい。


 ある程度の背景も知ることが出来たことだし、少女に嵌められて首輪を外すための情報も探ることにした。……なるほど、これがそうか。一番厄介なのはこの奴隷商の構える店に解除方法があった場合だが、幸いなことにそうではなかったようだ。


 「解除方法が分かった。その子をこちらによこしてくれ」


 少女の首輪に触れ、解除のためのパスワードを口にする。


 「ゴルドス様サイコー」


 沈黙が流れる。……気まずい。ちなみにゴルドスとはこの奴隷商の名前だ。まさか自分の名前を首輪の解除パスワードにするとは、なかなかにぶっ飛んだヤツだ。普通にカギで開けるタイプの奴だったら良かったんだが、都市の外に出るので紛失してしまう可能性を憂いてパスワード式にしていたらしい。


 首輪の外れる音はすぐに鳴ったが、俺にはかなり長い時間に感じた。まさか死んでなお、俺をこれほど苦しめるとはな…。いや、死んだ後の方が俺を苦しめたかもしれない。


 エルフの剣士はというと、首輪が解除されたのを確認すると俺を押しのけるように少女に近づき、その容体を確認している。まぁ、かなり衰弱しているようだが、命に別状はないだろう。実際、俺の死因は暴力が原因だからな、体験談というやつだ。


 「俺は約束を守ったぞ。先に言っておくが、俺の能力のことは詮索するなよ。さて、お前も俺との契約を順守してもらおうか…と、言いたいところだが、ここはわずかとはいえ人通りもある。他の人間に見つかれば面倒なことになるから、ゆっくり会話するのは不向きだな。場所を変えるか、どこかいい場所は無いか?」


 「……分かった、ついてこい」


 渋々ではあるが、俺を人気のない場所へと案内してくれる。完全ではないにしろ、約束を守った俺を少しは信用してくれたようだ。




 「食べるか?」


 俺達が街道を大きく外れ、人気のない所にたどり着く頃には日は大きく傾いていた。無論魔物である俺は夜目が聞くため大した問題ではなかったが、エルフである彼女はそうもいかない。


 彼女はさっと野営の準備を整え、保存食と思われるものをカバンから取り出した。エルフが普段何を食べているのか気になり彼女を眺めていると、もの欲しそうに見えたのかそう聞いてきた。


 「いや、大丈夫だ。腹は減ってないんだ……っとすまん。やっぱり一つ、くれないか?」


 「ほら」


 彼女が渡してきた食べ物…ドライフルーツのようだが、元となった果物が分からない。多分リンゴの様な果実だとは思うが、それはない。なぜならそのドライフルーツには俺がこれまでに見てきたどんな食べ物よりも、比べ物にならないほどの大量の魔力が宿っていたからだ。


 一口かじってみる。……美味い。この体になって、普通の食べ物を食べても美味いと感じたことはなかったが、これはちがう。魔力を大量に保有しているためかだろうか。久しぶりに普通の食事を普通に楽しむことが出来た気がする。今までの主食は魔物の遺体だったからな、その落差が激しいのだ。


 余程美味そうに食べていたのだろう、彼女がもう2・3個よこしてくれた。ありがたい、彼女はいいエルフだ。出来ればもう少しお近づきになりたい、そしてこのドライフルーツの入手方法を知りたい。心の底からそう思った。


 しばらくの間食事を楽しみ、その余韻を楽しんでいると彼女の住むエルフの里に何があったのか話し始めてくれた。


 エルフの里にある『精霊樹』これが魔物に襲撃され、一時的に里の結界が緩んでしまいその為里の近くまで人間が行けるようになってしまい、人間にさらわれるエルフが出たそうだ。


 エルフは魔力を生まれつき多く保有しており、多くの魔法を使うことが出来る。成人したエルフなら人間に対抗すことができるし、相手が予想以上に強くても、仲間のいる里に逃げ帰ることは出来るはずだ。しかし今回狙われたのはあまり魔法に長けていない子供たちであったのだ。


 「里がそんな危険にさらされているなら、子供は外に出しちゃダメだろ…」


 「里が魔物に襲撃されて結界が緩んでしまっているという事に気が付いたのは、襲撃後しばらくしてからだった。当然里の子供達はそんなこと知らなかったから、普段通りに里の外近くにまで遊びに行ってしまい、人間に捕まってしまったという事だ。そもそも結界に揺らぎが出たという事を我々が知ることが出来たのも、子供たちの幾人かが行方不明になったことがきっかけだ」


 「なるほど。そういえば、『精霊樹』を襲った魔物ってどういったやつなんだ?というか、なんでそいつには里の結界は効果が無かったんだ?」


 「エルフの結界というのは物理的な障壁を展開しているのではなく、相手の方向感覚や平衡感覚といった感覚を狂わせるものだ。当然エルフには聞かないように展開されている。だから人間の様な知性ある生物には良く効くが、知性のない、本能のみで動いているような魔物には効果が薄い。今回里を襲撃してきたのはタイラント・センチピード。確か人間の世界ではアダマンタイト級の冒険者とやらが出張らなければならないほどの強敵だ」


 「マジかよ…よくそんな奴を倒せたな。しかし何でまたそんな奴に狙われるようなことになったんだ?」


 「里長がおっしゃるには、『精霊樹』に流れる膨大な魔力に誘われてきたらしい。無論『精霊樹』の力は巨大であり、莫大な魔力を宿している。多少魔力を吸われたからといって大した被害はないが、ああいった魔物は樹の幹を齧ることで魔力を吸う。流石の『精霊樹』も物理的に傷つけられてしまえば、いつかは枯れてしまうだろう」


 「なるほどね、莫大な魔力か……ん、魔力?ってことは、もしかして…」


 「よく気が付いたな、人間にしてはなかなか鋭いじゃないか。そうだ、お前の気が付いた通り、先ほどまで食べていたのは『精霊樹』に成る木の実だ」


 『精霊樹』を守らなければならない、そう心の底から思った。



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