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 思えば最初から少しおかしいと思っていた。念話で「商人」の前に「人間」という言葉をつけていたからだ。それはつまり「人間」以外の種がいたという事だ。ただその言葉の意味を知ったのは、現場に着いた後であった。


 サーチ・スライムから入手した『索敵』の能力を使いながら現場に向かっている道中、わずかながら違和感があった。それは野盗と思われる人物の立ち位置であったり、人質と思われる少女や商人の配置であったり、だ。


 その答えが自分の中で出る前に現場に到着した。


 そしてそこで見た光景は、俺の想像した現場とはまるで違っていたのだ。


 野盗と思われる顔の下半分と頭を布で覆い隠しているエルフの女剣士(エルフ特有の長い耳のおかげでそれが分かった)。それを囲むように様子を窺う冒険者と、エルフに倒されたと思われる幾人かの冒険者。檻に入れられ、ごつい金属の首輪を嵌められてぐったりと倒れている幼いエルフの少女。その少女に短剣を突きつけ、エルフの女剣士を牽制する商人。


 眷属からの念話で、てっきり野盗が少女を人質にとって戦況が拮抗しているものだと思っていたが、まさか商人…いや、奴隷商が少女を人質にとって戦況が拮抗していたとは思ってもみなかった。


 エルフは奴隷としてかなり高額で取引される。それもそのはず、エルフはその美しい見た目に加えて、人間よりもはるかに寿命が長い。奴隷商人からすればこれ以上にないほどの優良な商品であるといえるだろう。もちろんエルフからすれば、たまったものではないだろうが。


 察するに、この商人が何らかの違法な方法でエルフの少女を捕らえ、エルフの女剣士がそれを取り返しに来たというところか。


 彼らは突然現れた俺を驚いた表情で見て、奴隷商は目ざとく俺の首からぶら下げている『ミスリル』級冒険者を示すタグを見て、その表情を喜色の色に変えていく。


 「ミスリル級の冒険者の『マジク』だ。戦闘音を聞きつけて来た」


 「これは、これは、マジク殿。救援ありがとうございます。早速で悪いのですが、あの剣士を倒すのに協力してはいただけませんか?」


 「うむ、了解した…と言いたいところだが、少々混乱している。何故あのエルフの剣士に狙われるようなことになったんだ?いや、おおよその検討はつく。まさか私に人攫いの片棒を担げというのか?」


 「あ…そ、それは…誤解です。私は正当な手段によりこの娘を購入したしました。ところが町に運ぶ途中、急にあの剣士が現れて、この娘を差し出せと襲ってきたのです…」


 奴隷商はこう言っているが、どこからか攫ってきたに違いないだろう。そもそもエルフは排他的であるが同胞とのつながりは強固だと聞いたことがある。そんなエルフが同胞の、ましてや幼い少女を人間に奴隷として売るという選択肢はとるはずが無いのだ。


 言った奴隷商も苦しい言い訳だと自覚しているのだろう。少し苦々しい表情はしているが、まさか人間である俺が自分たちを襲うとは欠片も思ってはいないだろう。どこか余裕の表情が窺える。


 実際は俺は人間ではないし、人間を襲うことに欠片ほどの罪の意識を感じることは無い。相手がこの商人のように悪人ならなおさらだ。


 「まぁいい。それで、謝礼としていくら出せる?」


 「謝礼…ですか?」


 「当然だろ。まさか俺にタダ働きさせる気か?」


 「分かりました。金貨10枚…いや、20枚ならいかがでしょうか?あと、出来ることなら、あのエルフの剣士を生け捕りにしていただけるなら、更に倍の金額をお支払いしたいと思いますが…」


 「おいおい、まさかたったの金貨40枚であの剣士を生け捕りにしろってのか?商人のお前でもわかっているだろうが、あのエルフの女剣士かなり強いぞ。それをそんなはした金で…最低でもその10倍は貰いたいんだが?」


 「き、金貨200枚ですか!?それは流石に暴利なのでは…」


 「俺は奴隷売買に関してそれほど詳しいわけではないが、美しい人間の娘ですら金貨100枚は固いと聞く。エルフならその10倍の価値があってもおかしくないだろ。おまけにかなり腕が立つ。性奴隷兼護衛のできるエルフなんてそれ以上の価値があってもおかしくはない。それが仕入れ値たったの金貨200枚なんて安い方だと思うが?」


 「わ、分かりました。その金額で手を打たせていただきましょう」


 「それで、契約のスクロールは持っているか?これほどの大金だ。すべて終わった後に、しらを切られてはたまったものではないからな」


 「はい。私のこのマジックバックの中に…」


 奴隷商が人質としていた少女から視線を外し、自分のもつマジックバックに意識を向けた瞬間に、その奴隷商の首をはねる。俺との商談が決まったと思い、気を抜いたスキを突かせてもらった。


 エルフの女剣士を含めこの場にいる全員があっけに取られていた。当然だ、そんなタイミングを見計らってから行動に移したからだ。


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