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 いつものように依頼を達成後、冒険者ギルドの職員から周辺都市の魔物の情報を仕入れ鍛錬に向かう途中、依頼の貼ってあるボードをふと見ると、今朝までは貼っていなかったある依頼が目に入った。


 『交易都市メウリージャまでの護衛』護衛依頼を受けるには最低でも3名以上のパーティーで結成されている必要があるため、自分には関係ないものと思いこれまでは特に気にすることも、気を配ることもなかった。


 ではなぜ急に気になったのかというと、この『メウリージャ』という都市、俺の前世の記憶にある地名であったからだ。確か俺が生まれ育ったライアル王国の遥か北に位置する都市で、俺が商業ギルドで働いていた頃に何度かその地域の商人と取引をする機会があった。


 迂闊だった。今まではライアル王国の地名だけを頼りに、その場所を探していた。まさかこんな経緯でライアル王国の情報が手に入りそうとは思ってもいなかった。


 ただ、ライアル王国の情報を探していたといっても、どうせすぐに帰っても復讐を成し遂げることが出来るだけの力は無かったので、それほど真剣に探していたというわけでもない。


 むしろ簡単にライアル王国帰ることが出来ていれば、転生後すぐにギャバンの元に向かったはずだ。そうして奴の顔を見てしまえば怒りを抑えることが出来ず暴走してしまい、碌な策を弄せずに復讐が失敗してしまうかもしれないという危険性もあったはずだ。


 そう考えると、簡単に情報が手に入ることのなかった今までの状況に感謝しなければならないという気持ちもでてくる。しばらくの間考えに耽っていると、不審に思ったのかギルド職員に声を掛けられた。


 「ネスさん、どうかしましたか?何か気になる依頼でもありましたか?」


 「あの、すみません。この依頼にある『交易都市メウリージャ』という都市なんですが、どの辺りにある都市なんですか?」


 「たしか…ここから南西に位置する都市だったと思います。ちょうど大きな街道がぶつかる位置にあり、人や物の動きが活発で、自治州でありながら周辺国家に負けないほどの大きな経済規模を保有していたと思います。もしかしてこの依頼を受けるおつもりですか?」


 「いえ、どこかで聞いた名前だな…と思い、気になっただけです。ありがとうございました」


 本日の予定を取りやめ、冒険者ギルドの司書室に向かい地図を取り出す。見れば先程聞いた方角に確かに都市があり、距離は馬車で数カ月とそれほど離れていない位置にあった。


 今すぐ馬車に飛び乗って向かうか、それともこの場所でもう少し自分を鍛えてから向かうのか、非常に悩みどころである。


 悶々とした気持ちのまま宿に向かい、ベッドにダイブする。


 正直、今すぐにでもギャバンの奴に復讐したいという気持ちはあり、その気持ちはこの体に生まれ変わって以降それなりに時間が経っているにもかかわらず一切衰えてはいない。奴が今も平然と暮らしているかと思うと、むしろ日増しに強まっている気さえしている。


 奴を殺すだけなら今の俺の強さからすれば決して難しいことではない。ライアル王国に行き、適当な人間の姿に擬態して背後から刃物を奴の体に突き刺すだけで簡単に完了する。


 しかしそれで本当にいいのかという気持ちが強い。


 俺は奴のせいで長い間地獄の苦しみを味わったのだ。にもかかわらず一瞬で殺してしまうのは非常にもったいないという思いが強い。奴には俺と同等の…いや俺以上の長い期間に亘って苦しめた後に殺さなければ俺の気持ちが収まりそうにない。


 憲兵の奴らも同様だ。仮に上からの命令で仕方なしに俺を苦しめていたとしても、そんなこと俺の知ったことではない。奴らにも必ず俺以上の苦しみを与えなければいけない。


 しかし憲兵ともなると、全員ではないが幾人かはかなり腕の立つ人材もいる。負ける気はしないが、俺の復讐の対象は憲兵全員であり、腕の立つ奴を相手している間に他の憲兵に逃げられてしまう可能性もある。


 そんなことは決して許さないし、許すことは出来ない。


 しかし今のままだと…と堂々巡りになってきた。何か、あの国の連中のことを考えているだけでだんだん腹が立ってきた。すぐにでも向かいたいという気持ちになってくる。


 決めた。メウリージャに行こう。ただし寄り道前提の移動であり、経験値が稼げそうなイベントがあれば間違いなく参加し、自己強化に努める。もちろん道中は能力強化も図る。


 予期せぬ方法ではあったが、復讐に一歩近づいたことには変わりない。今日はよく眠ることが出来そうだと思った。


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