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 ある程度察することが出来たことではあるが、この貴族が戦場に望ましくない格好で来た理由は単に急な出兵であったので自身が着用する鎧の準備が間に合わなかったことと、クオリア公国との戦力差を鑑みて、自身が前線に出る必要が無いと思い、ならば鎧など着用せずともよいという考えに至ったという、あまりにも馬鹿らしい理由であった。


 ならばなぜ公国兵との戦争の前線に自ら参加したのかというと、次々と手柄を上げる周りの貴族たちに影響されたことが原因らしい。勝ち戦なら、戦に不慣れな自分でも楽に手柄を上げることが出来ると踏んでしまったのだ。


 しかし結果はあっさりと反撃にあい、味方からも見捨てられてしまう体たらく。徴兵した民兵達も、自分たちが不利と見るや否や、領主を置いてさっさと逃げ出してしまうというおまけつき。


 この貴族自身、民兵のこの有様に大層腹を立てていたようではあるが、この貴族の普段の領民に対する扱いを見ると彼らが逃げ出したくなる気持ちも十分に理解が出来るというものだった。


 そして戦場から命からがら逃げだして、何とか公国の兵士から逃げ出すことには成功した…というよりは、公国に追手を差し向けるだけの余裕がなかっただけのようにも思えるが、その後こうして俺の眷属に捕まってしまったのだ。


 と、まぁ、ここまではどうでもいい情報だ。俺が知りたかった情報はこんなことでは決してない。しかしこの体たらくだと、得ることのできる情報などたかが知れていると思ったが、意外にも持っている情報が多かったのだ。


 どうやら領民から搾り取った税を使って有力な貴族にすり寄る術は意外にも長けており、寄り親となる伯爵家の腰巾着として重大な会議にも参加することが出来ていたようだった。


 情報漏洩の観点からすれば公国の捕虜となってしまったときの損害を考えれば良い事ではないと思うが、結果的には公国ではなく俺に鹵獲されその情報を公国側に漏れることがなかったのは、ランジェルド王国からすれば不幸中の幸いなのかもしれない。


 とは言ったもののこの貴族、すでに会議で得た情報の大部分をすでに忘れていたのだ。これなら仮に公国に生け捕りにされていたとしても、大した被害はなかっただろう。ダメ元ではあったが、少々もったいないなと思ってしまう。


 さて、この貴族からの情報だと、この戦争はジルがいようがいまいが関係なく、遅かれ早かれ開戦することがほぼ決まっていた様子であった。


 何故なら公国の主戦派にすでに王国の工作員の手が入っており、きっかけさえあれば開戦まで待ったなしの状態が続いていたのだ。ジルが公国に侵入してから開戦までの流れがやけに早いと思っていたが、そういう事情なら納得だ。


 おまけに公国と国境を接するソーンガイア帝国とも話がついており、公国に援軍を派遣しないことも内内にだが決まっていたそうだ。


 確か公国は元々王国の一部で、帝国の助力を得て独立に成功したらしいが、王国からすれば、手を貸した帝国よりも実際に王国を裏切った公国の方が許せなかったという事なのだろう。


 おまけに現在、公国はソーンガイア帝国からも攻撃を受け始めている。これは王国との約定にはないことではあったが、王国側の貴族からも公国に協力しなければどうでもいいと、むしろ公国を殲滅するのが楽になると判断が下されていた。つまり現在、公国は自国よりもはるかに大きい王国と帝国、二方面からの攻撃を受けている状態であるというわけだ。


 帝国と公国。仲が悪いという話は聞いたことが無かったが、帝国からすれば、そそのかしたとはいえ公国は一度王国を裏切っている。もう一度…今度は帝国を裏切らないという保証はどこにもない。つまり信頼に値する国でないことは分かりきっているので、初めからきっかけさえあれば公国を滅ぼす心算だったのかもしれない。


 本来なら、公国の全貴族が協力して事に当たらなければならないほどの国難でありながら、貴族は自領を守ることで手いっぱいである。そのため各方面と連携が取れず、公国の貴族は各個撃破されているのが現状だ。


 今はまだ大貴族と呼ばれる者達が何とか頑張ってはいるようだが、援軍が期待できない以上、公国が侵略をはねのけ勝利する未来は期待できないだろう。


 俺が『同化』したこの貴族が功績を求めて無理な出陣に繰り出した理由も、公国の惨状を知って十分な勝機があると判断しての事だ。その気持ちも分からないでもないが、功を焦り未だ士気が高い豊かな領地を狙ったのは失敗だったな。まぁ、そのことを知ったのは実際に戦った後の事にはなるんだが。


 知り合いである貴族に勧められたらしいが、もしかしたらその貴族に捨て石にされたか、様子見のための先兵にされたのか。どのみち、碌な理由で進められたのではない事には間違いない。


 僅かばかりの同情を…抱くことはない。結局世の中は弱肉強食、弱者が搾取され続けるのは世の常なのだ。今までは自分より弱者である領民相手に好き勝手出来たようではあるが、自分よりも強者に滅ぼされるのは仕方のない事である。


 モチロン、これは俺にも当てはまる。進化したことによりわずかばかり油断していた心を締め直すことにする。一番の敵は人間ではなく、自分自身なのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いま思い出したけど、フィリップにやったやつは通用しないのかな?
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