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連合軍の斥候部隊が他にいないとも限らないので、偽装工作もほどほどに切り上げ俺も撤収することにした。
ゴブリン・リーダーの擬態を解き、いつもの人間の姿に擬態する。これなら冒険者や連合軍に遭遇しても、出合頭に殺されるという事は無いだろう。
ウィルバートの町に帰ろうかとも思ったが、特に急いでいるというわけでもないので先にクオリア公国に行って、19番を始めとする眷属達の様子を現地で確認してから帰ることにした。
そのことを19番に念話で伝える。
『それは重畳。実はランジェルド王国の指揮官の一人である貴族が独断専行し、無理な攻撃をしかけて公国の手痛い反撃にあってしまい、敵地で孤立しています。私の能力で周囲を索敵したところ、王国からの援軍が出ている様子はないので、恐らくは王国の上層部から見捨てられたものと思われます。彼を『同化』すればそれなりの情報を得ることが出来そうですが、どうしますか?』
『ここから19番達のいる場所まで急いでも3日はかかりそうだな。仮に今殺したら、俺が到着するまでに死体が腐敗してしまい、得られる情報が少なくなってしまうかもしれない。何とか生きた状態で拘束することは出来そうか?』
『大丈夫だと思います。先ほども述べましたが、その貴族は現在孤立しており、手勢の数も5名とかなり少ないです。情報収集のために出した眷属からの情報によりますと、いずれも手傷を負っており、強さも冒険者で言うところの銀級未満です。こちらの被害なく制圧できるでしょう』
『分かった。それじゃ、今から向かうことにする。その貴族以外はお前たちの好きにしろ。仮にだけど、無力化するのが難しそうだったら別に死体でも構わないからな。情報よりも、お前たち眷属の方が大事なんだから』
『過分なお心遣いを頂き恐悦至極にございます!この19番!改めてボスに忠誠を…』
何か話してたけど、長くなりそうだったから思わず念話を切ってしまった。
大体忠誠って…自分で自分に忠誠を誓うという事なのか?字面だけを見ると、とんだナルシストだ。個性があるというのも考え物だと、少しだけ思ってしまう。
素早く荷物をまとめて遠出の準備をする。まぁ、準備といっても大したものは持って無いのですぐに終わり、目的地に向けて出発した。
道中は街道を通って堂々と移動した。その間、索敵の能力を使いながらの移動し、能力の修練のための時間に充てる。この短い移動時間の間でどれだけ能力を向上させることができるか分からないが、小さなことでも積み重なればいずれは大きな結果になるだろう。
連合軍に雇われたと思われる冒険者とも幾人かすれ違い、オーガ・リーダーの情報について聞かれたが、知らぬ存ぜぬで押し通した。まぁ、向こうもダメもとで聞いてきていたようで、特に落胆している様子はなかった。
逆にこちらから何があったのか尋ねてみると、意外にも丁寧に教えてくれた。しかし、そこで聞いた情報は少し…いや、実際のものよりもかなり誇張されているものだった。
この冒険者達が俺を何らかの理由で騙そうとしているのでは無いのかと思ったが、そういった悪意は感じられなかった。となるとやはり、連合軍内での情報のやり取りが、あまり上手くいっていないという事なのだろうか。
いや、もしかしたら、あえて魔物の戦力を実際の戦力よりも大きく吹聴することで、それを殲滅した自分たちの功績を大きく見せるという魂胆があるのかもしれない。
どちらにしろ、あまり褒められたことではないだろう。この調子だと、ジル達が無事に目的地まで到着することは間違いないのだろう。
それが分かっただけでも、この冒険者達と会話した甲斐があったというものだ。神妙そうな表情を作りながら冒険者達と別れるが、心の中では安堵の気持ちで一杯だった。




