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煙幕による効果は、視覚に頼る魔物相手なら効果は高いが、俺にはサーチ・スライムから入手した能力がある。これを使えば距離に制限はあるが、相手の位置情報を知ることが出来る。この程度の範囲なら問題は無い。
……どうやら二手に分かれて逃走を開始したようだ。これといって意思の疎通をしていた様子はなかったので、あらかじめパーティー内でそういった取り決めをしていたのだろう。
距離の近い弓使いを先に狙うことにする。脱兎の如く逃げ出したとはいえ、足の速さ自体は俺の方が上であり、易々と追いつき、その背中に剣を振り下ろす。
その間にもう1人の斥候職の方は大分距離を稼ぐことが出来たようであり、かなり離されてしまっていた。このまま森に入られると探しだすのが少々面倒になる。密かに練習してきたあの能力を使うことにする。
「『マジック・アロー』!」
この前『同化』したマジクの得意魔法の一つだ。光の矢を複数出すことが出来る魔法であり、威力こそただの弓矢と大差が無いが、その分消費魔力が少なくスピードもあり、ある程度の追跡機能もある。
マジクは主に牽制用として使用していたようだったが、生まれながらに硬い外殻や皮膚を持たない人間相手なら威力はそれで十分だ。
未だにマジクほどの威力と数と飛距離を出すことはできないが、それなりの時間練習に充てたこともあり、戦闘で十分に役に立つほどの性能がある。
生み出された光の矢の数は全部で5本。目標に向かって射出する。
魔法が着弾したことを感じ取ると、目標であった冒険者の動きが急に鈍くなったことを察知する。仕留めることは出来なかったが、魔法が当たったことには違いない。ポーションを使い治療したとしても、痛みにより先程までの様な素早い動きは出来ないはずだ。
煙が晴れるのをのんびり待ち、逃げ出した冒険者の後を追う。
見れば、右足と左肩に出血の跡がある。血が止まっているように見えるという事は、すでにポーションを使用したからだろう。しかし、やはり動き自体はかなり鈍いようだ。
とはいえ、油断はしない。先ほど煙幕を出したように、何かしらの魔道具を使用してくるかもしれない。ポーションを使ったという事は、まだ自分の生を諦めていないことの証拠でもあるからだ。
十分距離がある位置から、もう一度マジック・アローを放つ。
今度は全弾命中した。
まだ息があるようだが、特に恨みがあるというわけでもないので、苦しめるのも可哀そうと思いすぐに止めを刺して楽にしてやる。それにしても、ただのスライムだった俺がこれほどの戦闘力を手に入れることが出来たとは…今更ながら感慨深い。
そういえば、彼らは「オーガ・リーダー」といっていたな。どうやらジルが進化していることすら知らなかったようだ。情報が錯綜しているのだろう。貴族連合内でもいろいろと問題があるのかもしれない。
……しかし、今回はかなりまずかった。
俺を捕捉したのが金級冒険者のみのパーティーだったから良かったが、ミスリル級の冒険者が2・3人でもいれば結果は違っていたかもしれない。
16番の眷属はパラサイト・スライムにしか進化しないかもしれないという情報を聞き、少しでも恩を売っておきたいという欲望に駆られ、今回新たに進化した俺の眷属のサーチ・スライムをすべてジル達に同行させたのは間違いだったかもしれない。
とはいえ、今から返してくれというのは流石に恥ずかしい。まぁ、19番に同行させているサーチ・スライムが多数いるので、彼らと合流するまでの辛抱だ。今回の失敗も次に生かせばいい。
そう思い、単純作業をしながらでも周囲への警戒を怠らないような精神状態の持っていき方を研究することにした。この研究が実れば色々と楽になりそうだ…と思う。いや、思いたいというのが本音だな。




