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 「……報告は以上になります。あと、今回の襲撃おいて進化したゴブリンがいますが、この進化が普通ではないというか…口で説明するよりも、実際に見ていただいた方が早いと思い、近くに控えさせています。呼んでもよろしいでしょうか?」


 「ホーブは色々と準備が良いな、もちろん構わない……と、なるほど。体の大きさはゴブリンとゴブリン・リーダーのちょうど中間ぐらいで、保有する魔力が…ゴブリンの割にかなり多いな。これはすごい。ゴブリン・キャスターに進化したというわけか」


 「ゴブリン・キャスター…ですか?我々ゴブリン種にも、魔法を使うことのできる種がいたという事ですか?」


 「かなり珍しいことではあるが、な。俺も実物を見るのは今が初めてだ、冒険者ギルドの書物で読んだことがあるぐらいだな。まぁ、魔物の中には生まれつき魔法の使うことのできる種族もいるんだ。ゴブリンにも魔法を使うことが出来る種がいたっておかしいことではないだろ。何か魔法を使うように伝えてくれないか」


 「……無理、だそうです。確かに今までとは違う不思議な力を感じることはできるそうですが、これをどのように活用すれば魔法を使うようになれるかは、さっぱり分からないそうです。時間をかけて色々と試していけば何とかなるかもしれないそうですが…進化したての今の状況では流石に…と、言っています」


 「やはり簡単に魔法を使うことが出来る様にはなってはいないのか。出来ることなら、魔法を使うことに関するコツとか聞きたかったんだが…仕方ない。どのくらい役に立つか分からないが、先程『同化』したミスリル級のマジックキャスター、マジクの記憶の中に断片的ではあるが魔法の習熟に関する知識があるから、それを伝えておこう」


 「断片的…ですか?遺体はほぼすべてが残っていたんですよね。それでも知識の欠落があったのですか?」


 「どうやら、マジク自身が魔法学校で習った知識を忘れているところもあってな。本人が忘れていたら、俺もその知識を入手することはできないようなんだ。古い記憶を探ることはできないのもこの能力の弱点の一つだな。それと、このゴブリン・キャスターは明日以降の襲撃計画には参加させないでおこう。せっかくの珍しい個体なんだ。危険なことはさせたくない。拠点で待機させておいて、魔法の訓練をさせよう」


 「分かりました。…あの、以前から思っていたことなのですが、冒険者のマジックキャスターの数ってあまり多くないですよね。何か理由でもあるんですか?」


 「よく気が付いたな。いや、王国と公国の戦争であれだけバンバン魔法が飛び交っているのを見たら、気が付いてもおかしくないか。それで、まぁ、理由なんだが、簡単に言うと危険だからだな。」


 「危険…ですか?」


 「そもそも人間の中で、マジックキャスターの才能があるといわれているのは大体千人に一人ぐらいだといわれている。んで、この才能のある奴は一定の年齢に達すると、国の魔法学園に入学させられて、魔法の勉強をさせられる」


 「マジックキャスターの才能とは、どのように分かるものなのですか?」


 「確か協会に特殊な魔道具かなんかがあって、それに才能のある奴が触れると光るらしい。話を戻すが、この国の魔法学園を卒業した奴の主な就職先は王族か貴族の兵士、もしくは魔法師ギルドになる」


 「貴族の兵士ですか?あぁ、つまり今回の戦争に参加していたマジックキャスターがそれ、ということですね」


 「そうだ。マジックキャスターは貴重だから、就職と同時にエリートである騎士と同等の権限が与えられる。今回の様に戦争に参加させられることもあり、危険が無いこともないが、町の外での活動が主となる冒険者ほど危険というわけでもないからな。あと給料は技能手当がつくとかで、かなり高額らしい。ちなみに、魔法師ギルドに就職するのが一番安全だといわれている。街中で魔道具やポーション、スクロースを制作し販売するだけだからな。それでもその辺の一般人よりも比べ物にならないくらい給料がいい。学園を卒業した人の一番人気だと聞いたことがある」


 「では、残りが冒険者になるということですか?」


 「いや、マジックキャスターの中でも最も希少だといわれている『回復』系統の魔法が使える者は、卒業と同時に教会に所属することが決まっている。教会の言い分とすれば、『回復魔法は神の奇跡であり、教会の名の下でなければ行使してはならない』…とかなんとか言っていたな。興味なかったからあんまり覚えてないが」


 「神の奇跡…ですか?ポーションを使えばだれでも回復させることが出来るのではないですか?」


 「その通り、つまりは単なる建前だ。教会が自分たちの利権を守るための制度になっている側面が強い。そのことで王族や貴族が文句を言わないのは、教会は権力者との仲が非常にいいからな。治療が必要な時は、優先して治療するような取り決めになっているし」


 「つまり、それ以外が冒険者のマジックキャスターということですか」


 「概ねそうだな。位階を上げて己を高めたいとか、お金をたくさん稼ぎたいとか、一匹でも多くの魔物を殺し尽くしたいとか…そういったごく少数考えの人が冒険者になるんだろうな」


 「なるほど。色々と思うところはありますが、そのおかげで冒険者となるマジックキャスターの数が少なく、我々魔物が活動しやすくなっていると考えると感謝したい気持ちにもなりますね」


 「別に魔物の為ではないだろうが、気持ちは分からないでもないな。…さて、今日はもう遅い。お前は休むといい、俺と違って睡眠が必要だろう。残りの襲撃計画は俺がまとめておく」


 「ありがとうございます。では、自分はこれで」


 実際、冒険者となるマジックキャスターが増えれば魔物にとってかなりの痛手となるだろうし、回復魔法の使うことのできる冒険者が増えれば、冒険者たちの活動範囲は飛躍的に広がり魔物からすれば死活問題にもなりうるだろう。


 それほどまでに魔法という力は強大なのだ。その力を十全に生かすことのできない人間達にわずかながら同情してしまう。


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