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魔法を発動するために特殊な魔力の鍛錬が必要であることを知った俺は、最後の部隊が到着するまでの間その鍛錬をしながら待つことにした。
『同化』して得た知識の中にコツのようなものはあったが、それでも一朝一夕で使えるようになるとは思えない。強くなるためには、日々の鍛錬が不可欠であると改めて実感させられた。
そうこうしていると、ようやく最後の部隊が城門付近まで到着したとの念話が入る。知らず知らずのうちに鍛錬に集中し過ぎていたようだ。
「お疲れ様です、ゼロ。他の部隊の方々は、無事ここを通り抜けたようですね」
「ホーブ、か。そうだな、多少の被害もあったが、おおむね順調だといえるだろうな。お前たちもさっさと城門を抜けて、集合地点まで退避してくれ。追撃者の気配は無いがここはまだ敵地だ。何があるか分からないから最後まで油断するな」
「了解です」
魔物達が城門を抜けている間、俺はあらかじめ森で採取しておいた枯れ木やよく燃えそうな葉っぱなどをマジックバッグから取り出して、城門付近にばら撒く。さらにその上に油をまいて…準備完了だ。
最後の一体が城門を潜り抜けたことを確認し、俺も城門をくぐり抜け、その草木に火を放つ。ごうごうと勢いよく燃え盛る火を見て、この城門はしばらくの間使うことが出来ないことを確信。そうして森の中に身を隠す。
先に身を隠していたジルが俺の姿を見つけて、合流してきた。
「追手ハ?」
「近くに気配はない。しばらくの間ここの城門を使うことが出来ないとは思うが、他の魔物達が安全だと思える場所まで逃げるまではここで待機しよう。目についた井戸は破壊してきたんだよな?」
「ソウダ。簡単ニ消火サレルコトハ無イト思ウ」
「水を出すことのできるマジックキャスターもいるだろうが、魔物を追撃するために城門の火を消すよりも、街中の火を消すことを優先してくれた方が俺達にとって都合がいいんだがな。こればっかりはどっちに転がるかさっぱりわからん、運任せだ」
「運任セ、カ。正直、ゼロハ、モウ少シ思慮深イ奴ダト思ッテイタガ…」
「俺だって本当はもう少し調査に時間を費やしたかったさ。都市周辺に眷属を派遣しておいて、近くを通る人間から代官や兵士達に関する情報を入手するとかしてな。だが、今回はあまり時間が無かったからな…とはいえ、このチャンスを逃すってのも、もったいなかったし。だが、死傷した魔物も今までよりも割合が多い気がする、犠牲になった奴には悪いことしちまったかもな」
「気ニスルナ。死ンダ奴ハ運ト実力ガ足リナカッタダケダ。奴ラモ、ゼロノ事ヲ恨ンデハイナイダロウ。我ラハ、ゼロノ策ニ乗リ、ソレガ自分ニトッテ利ニナルト判断シコノ策ニ乗ッタ。ツマリハ自己責任ト言ウヤツダ」
「そう言ってもらうと気が少し楽になるよ。これが人間社会だと、プラスの部分の功績は上司に取られ、マイナスの部分の責任だけを取らされて懲戒処分だぜ」
「人間ノ社会トイウノハ、随分ト生キ難ソウダナ」
「俺もそう思うよ。成功した数よりも、失敗していない数の方が重要視されるんだ。だからあんなカスがさっさと出世していったのかもしれないな。初めから仕事を任せれていないんだ、失敗のしようがないんだから…っとイカン、イカン。今は、この作戦に集中いしなくては」
『そのことですが、ゼロ。先ほど念話が入りまして、皆、無事安全圏まで逃げ切ることが出来たそうです。我々も撤退しましょう』
「そうか、了解だ。俺達も撤退…って何で16番が先に念話の報告を受けているんだ?普通俺が優先だろ」
『先に報告しようとしたそうですが、何かトリップしてて話が通じなかったって言ってましたよ?』
「…マジ?なんかちょっと恥ずかしいんだけど…まぁ、いいや。眷属も元々は俺自身。自分に対して恥ずかしいって感情を持つのはおかしいもんな、うん。よし!それじゃ、撤退!」
行きは人間に接近を気づかれないようにするため、息を殺しながらゆっくり移動しなければならず、又、弱い魔物が遅れないように気を配りながらの移動であったが帰りはその必要はない。
ジルと二人での移動だ、あまり気を使う必要はない。かなり速いスピードで移動することが出来る。途中痕跡を消すために複雑な地形も利用したが、俺達の移動速度が落ちることはなかった。
しばらくすると、俺達の拠点が見えてきた。どうやら全員無事にたどり着いたようだ。
これから今回の襲撃の反省点をまとめて、明日以降の襲撃計画の修正に入る。
徹夜での作業になりそうだが、睡眠をあまり必要としないので問題は無い。スライムに生まれ変わることが出来て良かったな、と少しだけ思った。




