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魔物達の放った火の勢いは弱まることなく、むしろその勢いを強めていっている。
襲撃を仕掛けてひと段落が付いたのか、各地にいる眷属から念話により報告が入ってくる。順調に事が進んでいるとはいえ魔物達にも体力の限界はあり、時間をかけるほど当然体力は削られてしまう。それによって思わぬ反撃を受けてしまうこともあるだろう。
また、時間をかけるという事は冒険者や騎士団、そして兵士たちに反撃のための準備をする時間を与えることと同義でもある。
…少し早い気もするが、撤退するように眷属達に念話を送ることにした。
体力に余裕のあるうちに撤退すれば、迅速に移動できるため、敵に追いつかれ背後から攻撃される可能性も低くなる。何よりこちらが優勢にもかかわらず撤退すれば、何らかの策があると思うはずだ。まぁ、魔物が策を弄するほどの頭があると、判断する指揮官がいるかは分からないが。
どのみちまだ一か所目だ。これからいくつもの都市を襲撃する予定であり、無理をする必要は無いのだ。少しずつ、都市襲撃のためのノウハウを溜めていけばいい。
そうこう考えていると、ここから距離的に一番近い、兵士達の詰所に襲撃をかけていた部隊が俺のいる城門まで戻ってきた。
追撃する兵士の姿はない。魔物の追撃よりも消火の方を優先したか、はたまた追撃に出す余裕がないほどに兵士の数を削ることが出来たのか。その辺りの報告も聞きたかったが今は我慢。拠点に無事に帰ってから聞くことにする。
一体、また一体と、城門を潜り抜け城壁の外の暗闇へと消えていく。最後の一体が城壁を出てしばらくすると、魔物達が来た方角から人間の気配が近づいてくるのを感じた。人数は…1人か。念のため城門に閂を指し直し、魔物達が通った痕跡を消しておく。
「ディックか。お前、俺が来た方角から魔物が来たのを見ていないか?」
「魔物…?いや、見てないが…って都市内部に魔物が出たかもしれないって情報、本当だったってことなのか?」
「あぁ、そうだ。一体や二体じゃない、かなりの数が侵入していやがった。それで魔物が消えた方向を悟られないよう距離をとって追って移動してきたんだが…お前、本当に見てないんだな?」
「当たり前だろ。じゃなかったらここで警備なんてしてねぇよ。そんなたくさんの魔物を見かけたら、尻まくって逃げてるぜ。っつか、俺一人でここの警備ってかなり心細いんだが…魔物がいるんだろ?応援呼んでくれないのか?」
「そうしてやりたいのは山々なんだが、あまり時間に余裕がない。もうしばらくは1人で頑張ってくれ。……にしても、ここに来ていないってことは、都市中央の方に移動したってことか?そんで、そこで襲撃している連中と合流したってことなのか?いや、それとも…」
「おい!あそこに見えるの、もしかしてゴブリンじゃないのか!?」
「何?どこだ、どこにいる!」
「ほら、あそこだって!あの櫓の下あたりの…」
「どこの櫓だ?あれか?いや違うな…じゃぁ…」
と、いう具合に注意を引いて、サクッと始末しておく。それからすかさず『同化』して証拠の隠滅と兵士たちの最新の情報を入手する。
うーん、あまり目新しい情報は無しか。あまり期待はしていなかったが、情報をあまり持っていないという事は情報が錯綜しており、それだけ魔物にとって有利に事が進んでいることの証拠でもあるので良しとしよう。
などと考えていると、冒険者ギルドに襲撃を仕掛けた魔物達が返ってくるのが見えた。先頭にはジルの姿が見える。基本的に兵士よりも高い戦闘能力を持つ冒険者が相手であるため、俺達の中で一番戦闘力の高いジルに引率を任せていたのだ。
そしてそのジルの肩に大きな荷物のようなものが乗っかっているのが見える。わざわざあんな大きなものを持って逃走してきたことに疑問を抱くが、彼が無駄なことをするはずもないという信頼もある。
ジルが俺の目の前に来た時、その荷物の正体が分かった。冒険者の死体だ。首から下げたタグの素材でミスリル級の冒険者だと分かる。
「ジル、この死体は何だ?」
「土産ダ。コイツハ、マジックキャスター、ダ。オ前ガ、コイツヲ『同化』スレバ、オ前モ魔法ガ使エルヨウニナルンジャナイノカ?」
「多分そうだろうな。だからわざわざ持ってきてくれたのか?確かにかなり嬉しい土産だな。ありがとう、礼を言うよ」
「何、今回コノ件デハ支援ヲスベテ任セテシマイ、オ前ハアマリ経験値ヲ稼グコトガ出来テナイカラナ。ソノ埋メ合ワセダ」
「まぁ、俺は眷属が稼いでくれればその一部を俺の経験値に出来るからな。あまり気にしないでくれ」
「ソウカ。ソレデ、俺ハ今後ドウ行動スレバイイ?」
「とりあえず、城門から外に出て身を隠せそうなところで待機していてくれ。他の魔物達全員が撤退した後に、俺とお前で殿を務めるためにな。あと、代官所を襲撃した連中が戻ってくるまで、もう少しかかりそうだ」
「了解シタ」
ジル達を見送ると、早速先ほどの死体を『同化』し、魔法に関する知識を入手する。
…なるほど、これなら魔法が使えるようになりそうだが、魔法を戦闘で使用できるようになるまでには、少なくない訓練の時間が必要そうだが。
改めて、魔法という能力の奥深さを知った。




