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 3日かけてのクオリア公国脱出のためのルートの調査をし、そこから1週間の移動時間をかけて俺たちは無事ランジェルド王国に戻ることが出来た。さらに5日ほどかけて都市の調査をして、平時に比べて兵士の数が少ないことを確認し、入念に襲撃する場所の精査をした。


 今回は時間との勝負だ。

 

 時間をかければかけるほど、大都市からの援軍が向けられることが予測されるからである。ジル一人であったなら、その高い身体能力をもってすれば、どのような険しい道でも逃げ切ることがすることが可能であった。


 しかし今回は部隊を率いており、中にはゴブリンの様に大して強くない魔物もいる。そんな魔物の為にも余裕を持って逃走しなければならなかったからだ。もちろん彼らを気にかけなければどうとでもなったことではあるが、ここまで共に行動してきた彼らを見殺しにするほど薄情ではないつもりだ。


「さて、これから前方にある都市に襲撃をかける。まず俺が夜陰に紛れてそっと近づき、城壁を登って近くの警備兵たちを片付ける。そこから城門を開いてお前たちを招き入れ、事前の話し合いで決めた、幹部たちがそれぞれ部隊を率いて重要な施設を襲撃していき、混乱に乗じて経験値を稼ぐと同時に貴重な物資も頂く。そして人間達の迎撃部隊の編成が終わるまでにとっとと撤退する。ここまでで何か質問のある奴は……いないようだな。それでは作戦を決行する」


 現在俺達がいるのは城壁に近い森の中であり、木々の陰に隠れて城壁にいる兵士たちを観察している。公国との戦争中という事もあり平時よりも警備が厳重かとも思っていたが、その様子はなかった。恐らくは公国との戦争が優勢という情報がここまで来ており、公国の兵など警戒するまでもないという油断もあるのかもしれない。


 いずれにしても、こちらにとって都合がいいというのは事実である。擬態を解き、木々の隙間を抜け城壁に張り付く。こちらの姿を捉えた者はいないようだ。まぁ、仮に見られたとしても、スライムの姿を見たからといって周囲に警戒を促す者がいるかどうかは分からないことではあるが。


 城壁の壁はレンガを積み上げて作成したものであり、劣化によりところどころに出っ張りのようなものがあり、そこに上手いこと触手を引っ掛けて自分の体を持ち上げる。地方の一都市ということもあり、そこまで高い城壁は有しておらず、割と短時間で頂上付近まで登りきることが出来た。


 僅かに触手を覗かせて城壁の兵士たちの様子を探る。異変に気が付いたものはおろか、こちらに気を配っている者すら見当たらない。さっと体を持ち上げて城壁の上に身を乗り出し、体を平らに伸ばして目立たなくする。日中であればすぐに気が付きそうな簡単な偽装ではあるが、周囲が暗く篝火の明かりだけでは、余程近くによりでもしなければ気が付くのは困難であろう。


 そこから先ほど周囲を観察していた時に目に入った兵士にゆっくりと近づく。警備の兵は基本二人一組で行動するものだと聞いていたが、彼は珍しく単体で警備にあたっていたからだ。腕に自信があるのか、偶々一人であったのか。少なくともここで考えても分からないことは確かである。


 背後から慎重に近づく。間合いに入った瞬間パッと首筋に張り付いて、触手を顔面に張り付いて助けを呼べなくさせてから、鋭く伸ばした触手を首に突き刺し絶命させる。何度もこのやり方で暗殺を成功させてきており、俺にとっての必殺技といってもいいかもしれない。


 周囲を警戒し、こちらの異変に気が付いたものがいないことを確認する。問題ないようだ。この間に先程殺した兵士を『同化』する。やはり経験値を得ることはできなかったが、瞬時に死体が消滅することと死体の記憶を読み取ることのできるこの能力は、こういった隠密の作戦にもってこいであると言えるだろう。


 ふむふむ、名前をディックといい勤続10年のベテランでも新人でもない中堅どころ兵士か。今日彼が単独で警備に当たっていたのは、本来の相方が体調不良で休んだためであり、代わりの兵士も戦場に連れていかれたため余剰兵がいなかったため…という事か。


 彼の記憶を探り城壁内部の構造を理解すると同時に、眷属達に念話を送りその情報を共有する。なるほど、城門の扉は合金製であり、夜間人の出入りが無い間は木製の閂によって閉じられているのか。


 この点は良かったといえる。錠前でカギをかけるタイプの奴だと、鍵を探しだすことから始めなくてはならないので時間がかかってしまうからだ。もちろん錠前を破壊するという選択肢もあるが、金属で作られた錠前を大きな音を立てることなく破壊する術はなく、その音を聞きつけて他の兵士が集まれば、せっかくの隠密行動が無駄となってしまう。


 その点木製の閂なら俺一人でも十分に持ち上げて、簡単に扉を開けることが出来そうだ。


 さっそく城門に向かう。途中幾人かの同僚とすれ違ったが、軽く会釈をし合うだけで特に見咎められることもない。扉の前に警備兵は二人、当然どちらもディックと顔見知りだ。


 「どうした、ディック。今日のお前の担当区域はこの辺じゃないだろ」


 「あぁ、タレス。実はデール部隊長から使いを頼まれちまってな。何でもタレスに話があるとかなんとか…詳しいことは聞いてないが、急いで詰所まで行った方が良いんじゃないか?俺はその間、タレスと交代しとけって言われたんだ」


 「デール部隊長から?心当たりなんて何にもないんだが……仕方ない。気は進まないが向かうとするか。んじゃ、ディックここを頼むわ」


 タレスが急いで詰所まで向かっていくのを見送り、姿が見えなくなった頃、彼の相方であるダインが口を開いた。


 「んで、お前本当に内容とか聞いてないのかよ。本当はちっとぐらい聞いてたんじゃないのか?俺にも教えろよ」


 「そりゃぁ、少しぐらいは聞いたけどよ、デール部隊長に誰にも言うなって厳命されてるし…」


 「大丈夫だって。俺が口外しなきゃ問題ないんだからよ。大体よ、俺はあいつの相方だぜ、相方の心配するってのが悪いってのか?いざと言う時は互いにに命を預けるような間柄なんだぜ?」


 「はぁ、分かったよ。ただし本当に口外しないでくれよ。俺までとばっちり受けちまうかもしれないんだから…念のため近くまで来て耳を貸してくれ」


 「おう、いくらでも寄ってやるぜ……」


 死角から触手を伸ばして首に一突き。物音ひとつ立てずダインを殺し、その遺体をそっと脇に寄せる。後で眷属に吸収させるためだ。


 それから城門の閂を外し、外にいる魔物達を招き入れる。事前に眷属に念話を送っていたので、すぐ近くまで来ていたのだ。ここまでは作戦通りだ。何事もなく?作戦が無事に終了することを願おう。


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― 新着の感想 ―
[一言] ダインは死ぬ運命にあったのだな。
[一言] 主人公の能力バレたらバレたで人間が疑心暗鬼になって魔女狩り多発しそうな悪魔の能力だな
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