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今回の遠征で位階が上がり、さらに多くの眷属を作ることが出来た。その半数を王国軍と公国軍のぶつかった場所に派遣して、命を落とした兵士たちを吸収させており、残りの半数で公国の敗残兵達の索敵をさせている。
現在王国側の兵士が公国の貴族の領地を次々と攻め落としていっており、そちらにも眷属を派遣したいが手が足りていない。それは16番の方も同様であり、せっかくの新鮮な死体が次々と無駄になっていると思うと気が気ではない。そんな状況の中、待ちに待った朗報が届いた。
『仰せにより、ただ今罷り越しましてござります、ボス!』
『おう、久しぶりだな19番。相変わらず仰々しいというかなんというか、いや、まぁそんなことはどうでもいいんだが。それよりも、無事に眷属達を引率できたようだな』
『はい。ボスの眷属と私たちの眷属含め総勢72体、一体も欠けることなく引き連れてきまいりました』
『72体?…思っていたより多いな』
『元々は30体程度でしたが、道中発見したスライムを眷属にしていったためこの数になりました。流石にこれほどの数のスライムを人間に見られないように移動するのは苦労しましたが、わ・た・し・の!能力をもってすれば造作のない事であります』
『そうか、頼もしいな19番。それで事前に念話で話していたことだが、お前たちには現在、王国の兵士が攻撃している公国側の領地に行ってもらって、そこで経験値を稼いでもらう。普通の上位種はもちろんだが、お前は兵士に見つかっても見た目がタダのスライムだから積極的に討伐されることはないだろうが、流れ弾に当たって~という可能性もあるからな、十分気を付けて職務に励んでもらいたい』
『了解です。しかし、我々が王国に責められている公国側の貴族の領地の方に向かってもよろしかったのでしょうか?公国の貴族は自分の領地を守るためあらゆる策を講じることでしょう。そのためこちらの方が激戦が予想され、多くの死体…経験値を得ることが出来るのではないでしょうか?』
『単純に機動力の問題だな。逃走する兵士たちに追いつくことのできる眷属がいったいどれほどいるか。だったら、最初から動かない死体を相手に経験値を稼いでもらった方の効率がいいと思ったんだ。それに、公国の兵士の大部分を占めるのは徴兵された民兵達であまりやる気が無いみたいだからな。戦況が不利と見ればすぐに撤退するだろうからそれほど激しい戦闘にならないと思う』
先の戦が負け戦だったことに加えて、流行り病で家族を失った連中の怒りの矛先が貴族に向いていてもおかしくはない。自分たちを助けてくれなかったのに、どうしてそんな奴の為に俺たちは命を掛けなきゃならないんだ!って感じでな。恐らくは公国側の民兵達の多くは早々に降伏するだろう。残った専業兵士と騎士団でどこまでやれるか分からないが…多勢に無勢ではどのみち長くはない。
『分かりました。では我々は早速現地に向けて出発します。何かあれば、その時はよろしくお願いします』
19番との念話を終え、意識を本体に戻す。とはいえ、質、数共にこちらの方が上であるため被害なく殲滅出来ていているようだった。
現在俺達は公国の逃走した兵士たちを追撃している。当初はバラバラに逃げられていたため、個別に狩るのは少々骨が折れる作業だと落胆した気持ちになっていたが、時間とともに徐々に集まりだしたので気を持ち直すことが出来た。やはり皆一人で逃げるのは心細かったという事なのだろう。おかげで楽が出来た。
そんなわけで、大体2・30人ほどの団体さんを中心に狩り始めた。それ以上の数になると、何人かとり逃してしまう可能性もあるからだ。そこから情報が洩れて、冒険者を派遣されでもしたらせっかくの狩場から離れなくてはならなくなる。
戦時中であるため国同士の戦争に参加したくない冒険者が戦争に巻き込まれることを嫌がり、依頼を受ける可能性は低いかもしれないが用心は必要だ。
とはいえ、警戒し過ぎたためかかなりの数の兵士を取り逃してしまったこともまた事実である。次…があるかは分からないがこの経験もまた生かすことが出来ればいいな…と思う。




