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 ゴブリンやオークはもちろん、その上位種に加えてこの辺りでは珍しいコボルトやリザードマンまでいる。


 突然現れた人間の形をした俺を警戒していないところを見ると、あらかじめ俺の情報を伝えていたのだろう。それだけでもかなり統率が取れていることが容易に分かった。感心していると、奥の方から一体のオーガ・リーダーが近づいてきた。


 「久シブリダナ、ゼロ。シバラク見ナイウチニ変ワ…テイナイナ、オ前ハ」


 「そりゃそうだろ。この姿は擬態だからな、変えようと思えばいくらでも変えられるし、変えないようにしようと思えば一向に変わらない。ジルは雰囲気が結構変わったな。以前には無かった切り傷が増えている。今のお前をそこまで追い込むとは、相当の手練れだったようだな」


 「マァナ。ソノ辺リノ事モ話ソウカ。席ヲ用意シテアル、ソコマデ移動シヨウ」


 そう言って、ジルが来た方向に行くと冒険者が愛用しているような武骨で頑丈そうな天幕が設置されてあった。どこかで見たことがあると思っていると、どうやら、かつて襲撃した拠点に在ったものを持ってきていたようだ。


 恐らくは殺した冒険者の誰かがマジックバッグを持っていたのだろう。そしてそれに収納して持ち運んでいたというわけか。ちなみに俺が冒険者のマジックバッグを回収せずにわざわざ自分で高い金を出してマジックバッグを購入した理由は、マジックバッグがかなり高額であるため盗難防止のための魔法がかけられていることがあるからだ。


 そんな足のつきそうな危険なものを平気で持ち歩くほど俺は楽観的な性格はしていない。その点、ジルは魔物であるためそういったことを気にする必要などなく、マジックバッグを持ち出すことが出来たというわけだ。


 天幕の中に入ると、体格のいいゴブリン、オーク、そしてミノタウロスがいた。彼らがこの組織の幹部というわけか。俺の姿を見ると立ち上がり、頭を下げてきたところを見るとかなり頭もいいのかもしれない。彼らの紹介を終わらせてジルが話を続ける。

 

 ちなみに、事前に念話でジル達の近況を事細かに聞いていなかったのは、別に16番との関係が上手くいっていないというわけではなく、仮に俺の存在が冒険者にバレてしまい殺されても、眷属のうちの誰かが『俺』の遺志を継いで復讐を果たしてくれる存在に成りえるという判断からだ。


 その時に、俺が冒険者達に眷属達の情報を話さないという保証はない。俺が知らないだけで、相手の持つ情報が丸わかりに魔法だってあるかもしれないのだ。そしてそれがきっかけで、すべての眷属に危険が及ぶ可能性もある。


 しかし知らなければ話してしまう危険性もない。当然逆もまた然りであり、こちらの情報も必要以上に眷属達には渡してはいない。今回共同作戦を行って情報共有しているのは、それだけ高いリターンが期待できるからであった。


 「コノ傷ハ、アダマンタイト級ノ冒険者トイウ奴ト闘ッテ受ケタモノダ。恥ズカシイ話ダガ16番ガイナガラ、カナリ一方的ニヤラレテシマッタ。ダガ今ニシテ思ウト、アレハアレデ良カッタカモシレナイ。アノ時ノ俺ハ、俺ヨリ強イ奴ハイナイト、カナリ思イアガッテイタカラナ。アノ一戦デ多クノ事ヲ学バセテモラッタ」


 「そうか。まぁ俺から言わせてもらうと、アダマンタイト級の冒険者から生きて逃げ延びることが出来ただけでも大金星だ。やっぱお前はすげぇ奴だよ」


 「運ガ良カッタタダケダ。相手ガ致命傷ヲ与エタト思イ油断シテクレタオカゲダ。16番ガ即座ニ、ポーションヲ使用シテクレタノデ、何トカ隙ヲ突イテニゲダセダケダ。褒メラレルヨウナモノデハナイ」


 「いやいや、それでも十分すごいことさ。それに運も実力のうちと言うだろ。それを恥というなら、次は負けないようにすればいい。結局は最後に生き残った奴が勝ちなんだから」


 「感謝スル。サテ、ソレデハ次ハ負ケナイタメニ、強ク成ル為ノ努力ヲシヨウカ。ホーブ、戦況ヲ説明シテクレ」


 ジルの向けた視線の先に一体のゴブリン・リーダーがいた。いや、正確にはホブゴブリン・リーダーというべき存在か。ホブゴブリンとはゴブリンの亜種で、ゴブリンの中からごく稀に生まれる個体である。その特徴として、普通のゴブリンよりも高い知性を持つといわれており、かつていた『特殊個体』のゴブリン・ロードは当初この個体であると思われていたために、対応が後手に回り被害が拡大したといわれている。


 こいつがジルの配下になったのは冒険者に殺されかけた時、運よくジルに助けられたのがきっかけだったらしい。ジルもただのゴブリンであると思っていたらしく、助けた後に流暢にお礼を言ってきたことで16番がホブゴブリンであることに気が付き、珍しい存在だからと配下に加えることを提案したのだ。


 その後はその才能をいかんなく発揮し、彼主導のもといつの間にか配下が増えていき、魔物の軍団が完成してしまったというわけだ。ちなみに当初は名前が無かったので16番が名付け親になった。適当につけたらしいが、本人は覚えやすいからと案外気に入っているらしい。


 「分かりました。未だ開戦の使者は出ていませんが、両軍ほぼ全軍が集結したと思われ戦端が開かれるのも時間の問題かと思われます。両軍合わせて1万近い兵士が集結しており、仮に戦局が決まった状態であったとしても、下手にこの戦に介入すればこちらもかなりの被害を受けると予想されます。その為我々は戦が終わり、追撃戦に移行したときその追撃部隊に乗じて逃走する兵に襲撃をかける。もしくは、両軍にらみ合った状態で動けない間に、近隣の町や村を襲撃するのがよいと思われます。我々に対する討伐軍を派遣する余裕は両国ともにないでしょうからね。すでにいくつかの候補地を調査済みであり、行動を起こすならすぐにでも可能となっております」


 16番が言っていたように、人間と遜色ないほど流暢に話している。魔物は進化することによって様々な能力値が上がるといわれており、このホーブもただのホブ・ゴブリンからホブ・ゴブリン・リーダーに進化したことにより知能も上昇しているのかもしれない。仲間であるので頼もしいと思ったが、敵であるとすればかなり厄介な存在に成るなと思った。


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