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 「「「ぎゃああああああ!!」」」


 「どうした!?何があっ…!まさか…あれは…アシッド・スライム!?…それにポイズン・スライムだと!?なぜスライムの上位種がこんなに!?いや、今はそんなことはどうでも……うぐっ!」


 注意力が散漫だな。後方の悲鳴に気を取られて前方の魔物を無視して振り返るとは、流石にアイアン・スライムを舐めすぎたな。


 確かにアイアン・スライムの攻撃力は大したことは無いが、それはあくまで正面から戦った場合に、だ。後方からスキを突く形で攻撃を当てれば、いかにその大したことのない威力でも戦力差を変えるほどの一撃となりうる。


 おまけにその攻撃を加えたのは生物にとって最も死角になる首の後ろである。無防備な状態でそんな所に、鉄に匹敵するほどの重量のある魔物に思いっきり体当たりされれば、ろくに動くこともできまい。見た所未だ意識はあるようだが、かなり朦朧としている。こいつはもう、ろくに抵抗することもできないだろう。


 最初に奇襲した3人組に意識を向けると酸と毒による攻撃で激痛に苦しんでいる。彼らは自分のことが手いっぱいでリーダーの状態にすら気が付いておらず、必死にリーダーに助けを求めている。


 別に深い恨みのある相手でもない彼らの惨状をのんびりと眺め続け、その醜態を楽しむことが出来るほど性格が歪んでいるわけでもない。別の冒険者に見つかる可能性もあるため、早々に止めを刺して楽にしてやる。


 その後は丁度冒険者の数が4人であったこともあり、1体につき1人ずつ遺体を吸収して各々の経験値に変えた。その点は良かったといえる。3人とか半端な数だと意外ともめてしまうのだ。(経験済み)


 『いや~やっぱこのフォーメーションが一番効率がいいな!俺やポイズン・スライムがおとり役をすると、比較的強い奴は集団戦闘の構えを取ってスキを突くのが難しいし、弱い奴はさっさと逃げ出すから経験値に出来ない!見た目がただのスライムそっくりで、見向きもされないリーダーと比べるとはるかにマシだけど!』


 『……もちろんこの作戦の効率がいいという事は分かっているけど、毎度冒険者に妖しい目つきで見られる俺の身にもなってくれ。正直精神的にかなり疲れる』


 『そこはしょうがないポイね。役割分担は重要だポイ』


 『ちょっと待て。俺リーダーなのに何でさりげなく侮辱されちゃったの?いや、事実なのは認めるけどさ…』


 『おう、お前らなかなか調子がいいみたいだな』


 『『『『ボス!』』』』


 『ボ…ボス?まぁ呼び方なんてなんでもいいんだけどさ。それより、さっきも結構な量の経験値が入って来ていたし、やっぱ上位種でエリート部隊を作ったことは間違いではなかったみたいだな。実際16番…パラサイト・スライムを除いた他の面子の中では、お前たちが稼ぐ経験値の量はそれ以外の連中よりもはるかに上回っているし』


 『ふっ、お褒めにあずかり光栄です。ですがこの結果もまたボスがこの私にリーダーという重要な役職を与えてくださったが故の結果。つまりはボスの英断によるもの、真に褒められるべきはボス、貴方なのです!』


 『お、おう。そこでなんだがな、実は他にもお前たちの様なエリート部隊を作ろうと思っていてな』


 『ほ…他にも!?で、ですが冒険者達の位置を正確に把握することが出来る、私のような能力を持つスライムが居なければ難しいのではないでしょうか?上位種のスライムが集団でうろついているのをギルドに知られれば、討伐隊が派遣されかねませんよ!?』


 『実はとある冒険者の協力おかげもあってか、目当ての上位種へ進化する方法も何となくではあるけど分かりつつあるんだ。実際、すでにこの方法でサーチ・スライムに進化した眷属も何体かいる。そいつらにも上位種の部隊を率いらせようと思っているんだ』


 『何…だと…』


 『そういうわけで、お前たちには先輩として後輩に色々と教えてやってほしいんだ。しばらくの間仕事量が増えるだろうけど、この計画が順調に進めば俺は…いや、俺たちはもっともっと強くなれる。頼んだぞ』


 『ボス』との念話が切れ、静寂が身を包む。


 『アイデンティティ』確かに復讐には全く関係ない事柄ではあるが、自分のそれが失われつつあることを知ってしまい、言葉にできない焦りを感じてしまう。


 このまま他の眷属のように埋もれてしまうのか、それとも案外今までの様に目立つ存在であり続けることが出来るのか。いや、その可能性は低いだろう。


 16番の様にオーガ・リーダーという唯一無二ともいえるような協力者があればこんなことを考えることもなかっただろう。彼がうらやましいと感じてしまう。そしてこれはアイアン・スライム達が今までの俺に感じていた気持ちと一緒なのだ。


 彼らを小ばかにしていた過去の俺はなんて大人げない、恥ずかしいことをしてしまったのだろうか。いや、今ならまだやり直せる。彼らに誠心誠意謝罪して許してもらおう。そして彼らと一緒により素晴らしい結果を残し続けるのだ。そうすれば『我々』のアイデンティティは確立されるはずだ。そう思い彼らと向き合う。


 ……こ、こいつら必死に笑いをこらえてやがる。


 決めた。こいつらをこき使って俺は強くなり、リーダーの中のリーダーという唯一無二を手に入れるのだ!




 数週間後、眷属たちを管理することに特化した眷属が生まれたと聞いて、自分の目標がいつの間にか崩れ去ったと聞いてさらなる絶望を味わった。


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