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「今日も薬草採取と畑を荒らすボアの討伐か。たまにはもっとこう、華々しい活躍を上げられるような依頼をうけたいもんだぜ」
「愚痴るな、俺だって似たような思いはある。でも今の俺たちがそんな依頼受けても達成出来るわけがないだろ。よくて依頼の失敗による違約金、悪けりゃそのままお陀仏だ。先輩たちも言ってたが、今はコツコツと小さな依頼を受けて地力をつける時。無理はしないほうがいいのさ」
「リーダーに同意する。第一我々はまだしがない銅級冒険者。功を焦れば自滅するのは必然」
「うんうん、その通りですよハルトさん。ただ、弓使いとして戦闘の全体を俯瞰して見ている私からすれば、皆さん確実に強くなってきています。焦らずともそう遠くないうちにより高位の依頼を受けられるようになりますよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃなねぇか、ロビン。ちなみにだが、お前を除いた前衛3人のうちだれが一番強くなっていると思う?も・ち・ろ・ん、俺だよな?」
「たはは…、そこは、まぁ、皆さん同じくらい強くなってきている…ってことで勘弁してもらえませんか」
「んだよ、つまんねー奴だな。まぁいい、いずれグぅの根も出ないほど圧倒的な実力を手に入れて、お前たち全員ぎゃふんと言わせてやるぜ」
「あー、はいはい。分かったから少し声を小さくして……って構えろ!正面で何かが動いた!魔物の可能性もある、各自警戒を怠るな!」
「…………動きがありませんね。矢を射かけてみましょうか」
「頼む。ちょうどあの木の根の辺りの、陰になっている部分が…っと、動いた!構え……ってスライム?……いや、あの色からするとアイアン・スライムか!?」
「アイアン・スライム?聞いたことがねぇ名前だな。ただよ、結局はスライムかよ。警戒して損しちまったぜ。そんな雑魚は放っておいて、さっさと行こうぜ」
「ばっ…そんなもったいないことするわけないだろ!お前も少しは魔物のことを勉強しておけ!」
「もったいない?どういう意味だ?」
「アイアン・スライムはスライムの上位種。その素材は魔力の宿る武器を作成するための材料になる。しかし個体の数が非常に少なく出くわすことが非常に稀。故にギルドに持っていけば高額で買い取ってもらえる」
「マジかよ!高額っていくらぐらいになるのか!?」
「金貨10枚から20枚は堅いらしいですよ。ただ一つ難点があって、攻撃力こそ大したことは無いそうですが、防御力はかなりのモノらしいんです。不用意に剣で切りつければ、剣の方が刃こぼれしてしまうほどに。ですので刃物は使わず生きたまま頑丈な袋に入れて持ち帰ってそのままギルドに渡すか、その辺の石とか棒で核を破壊するまでひたすら叩きまくるってのが討伐のセオリーらしいんです」
「よっしゃ!んじゃ早速あいつをとっ捕まえて、ギルドに持ち込もうぜ!金の使い道なんて腐るほどあるんだからよ!」
「だな。大人数で近づいたら警戒されて逃げられるかもしれないから、俺が一人で近づいてこの麻袋をかけるって段取りでいいか?ボアの肉を詰めて帰る予定だったがまさかアイアン・スライムを詰めて帰ることになるとは思わなかったぜ」
「おう!頑張れリーダー。俺はここから応援しておくぜ!」
「だーかーらー、分かったから声を少し小さくしろ。お前のそのデカい声でビックリして逃げられたらどうするんだ」
「う……すまねぇ。気を付ける」
「よし、それじゃあ行くぞ」
相手に警戒されないよう、ゆっくりとアイアン・スライムに近づいていく銅級冒険者パーティーのリーダー。標的まであとわずかというところで…つまり最も油断していると思われるタイミングで攻撃を仕掛ける。
最初の標的はもちろんこのリーダー…ではなく後方で息を殺して待機している3人組。様子を窺っていたが、周囲を警戒もせずアイアン・スライムの動向に注目しっぱなしだ。この辺はやはり新人と言わざるを得ない。まぁ最低でも金貨10枚。新人の彼らにとってはかなりの大金ではあるが、それが自分の命に釣り合うかどうかは俺には分からないことではあるが。




