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 「ネス…いや、ネスさん!頼む、俺だけでも見逃してくれねぇか?」


 実験をするとは言っていたが、耳の中に水のようなものを入れられて以降、多少の頭痛がする以外に特に体調の変化がなかったので普通に話すことはできた。


 何とか奴の注意を引いて、俺に同情するような話をしよう。そうすれば、もしかしたら解放してくれるかもしれない。かなり俺にとって都合のいい考えではあるが、今はそれにすがる他ない。


 「実は故郷に結婚を約束した女がいるんだ。名前はエリス。小さいころからの仲だ。そんなエリスが流行り病にかかったと故郷の家族から連絡があって、その治療の為にどうしても早急に金が必要だったんだ」


 「ふむ」


 どうやら多少気を引くことはできているようだ。思わず緩んでしまいそうになる表情を締め直す。


 「あんたには悪いことをしたと思っている。でもよく考えてくれないか?結婚を約束した女と、あまり接点のない新人の冒険者。どちらが大切なのかという事を。俺は…前者を取った。もちろん褒められたことではないし、軽蔑してもらっても構わない。それでも…俺は彼女のことを心の底から愛しているし、彼女のためなら犯罪を犯し、罰に処されても構わないと思っている!」


 「ふむ」


 「だから…頼む、いや、お願いします!見逃してください。子分たちのことは俺からギルドに魔物にやられたと上手く報告しておく。あんたの事は絶対に誰にも話さないし、迷惑をかけないようにするから…頼む、この通り!お願いします!」


 手足を縛られた状態ではうまく動くことが出来なかったが、必死に頭を地べたに這いつくばらせて謝罪の意を伝える。


 「ふむ」


 「もし……もし見逃してくれるなら、それなりの賠償もさせてもらうつもりだ。今は女に金を送っていたから蓄えはそんなにないが、俺の命に代えてでも絶対に払ってみせる。だから…どうか!」


 「ふむ。他には何かないんですか?」


「ほ、他に?…そ、そう!何か欲しいものがあれば俺が必ず見つけ出して見せます。それに、あんたの子分になっても構わないと思…います。一応、冒険者歴は長いから割のいい仕事とか、そういうのを探す嗅覚には自信があります!」


 「ふーむ。いや、実に興味深い事だな!」


 いけた!と思った。新人冒険者に集っている時点で『割のいい仕事』を探す嗅覚が優れているという文言は説得力がないかと思われたが、案外そこには注意がいかなかったらしい。戦闘力はそこそこあるようだが、ずる賢さは俺の方が1枚上手だと思った。


 当然そんな嗅覚が優れているわけでもないし、故郷に結婚を約束した女がいるわけでもない。とりあえずこの場を何とかしのぐための嘘っぱちだ。もし解放されたら一目散に逃げだして、俺のことを誰も知らない遠く離れた町に即座に移動するつもりだ。


 縄を解いて解放してくれるのを今か今かと待ち望んでいると続く言葉に驚愕した。


 「ん?どうしたんですか、急ににやけだして……ってあぁ、そういうことですか。俺が興味深いって言ったもんだから助けてもらえるかもしれない、そう思ったわけですね。残念ですがそれは違います。興味深いといったのはフィリップさんの言動でして。ちなみにですけど、先ほど言ったエリスなる女性はあなたのお兄さんのお嫁さんの名前で、結婚を誓ったとか、病気で薬代がどうのとかの話が全て嘘であり、同情を誘うための作り話であることも知っていますよ」


 ……!何故そんなことを知っているのか。まさか俺に関する情報をあらかじめ入手していたという事なのか。しかし一体いつの間に、いったいどのような方法で入手したというのだ。


 「どうしてそんな情報を知っているのか疑問に思っている、そんな顔をしていますね。当然教えてもらったんですよ、他でもないあなた自身から。俺が興味深いといったのは、あなた自身がそのこと全く覚えていないことに関して、ですよ」


 「…俺、自身から……?」


 「そうです。ついでに言うと、あなたが男爵家出身であるとか、新人のころに自分よりも弱かった少女に助けられたとか、その逆恨みで新人冒険者に集るようになったとか色々教えてもらいましたよ。自身の才能の無さを話題にする当たり、よほど同情を誘いたかったようですね。ですが申し訳ない、俺の過去の方がかなり悲惨なので同情することが出来ないんですよ」


 「何……を、言って…」


 「昔は『オリハルコン』級の冒険者を目指されていたそうですね。確かに冒険者としての最高位である『オリハルコン』級に成ることが出来れば故郷の方々も見返すことが出来たでしょう。ですが田舎で生まれ育ったことで世間知らずなところがあったのでしょうか、少々夢が大きすぎましたね。あれほどの存在に成れるのは、ほんの一握りの天才だけです。だからお父様はそんなあなたを心配なさって、高度な教育を施されたというのに……親の心子知らず、というやつですか。本当に偲ばれます」


 「……………」


 「おや、黙ってしまいましたか。……さて、それじゃあ4番、実験の続きをしてくれ。……というか、ここまでの実験は、うまくいっているという事でいいのか?………完璧?まぁ、お前がそういうならそういうことでもいいんだけどさ。てかさ、お前、フィリップさんの脳みそで遊んでないか?」


 4番?こいつはいったい誰と話しているんだろうか。ここにいるのは俺とこいつと…あとはこのスライムぐらいか。そんなことを考えているとまた強い眠気に襲われて…また?あれ?俺はいったい何を考えていたのか…思い…出せ…な…




 「ネス…いや、ネスさん!頼む、俺だけでも見逃してくれねぇか?」


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