表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/271

41

 一度目の挫折を味わったのは村を出て半年がたったころだった。


 自分がいた村とは比べ物にならないほどの大きな町にたどり着いた俺は、すぐに冒険者ギルドに登録をした。予定では剣の腕を買われてすぐに上位の冒険者に昇給すると思っていたが、村では一番だった剣の腕も、所属した冒険者ギルドでは下から数えた方が圧倒的に速い程度のものでしかなかったのだ。


 それでも、魔物を倒し経験値を得て位階を上げればすぐにでも強くなれると信じていた。そう思い日々野に出かけて毎日ゴブリンを狩って町に帰るという苦行の生活を続けていた。


 最初の数週間は位階がぐんぐん上がることに感嘆し、すぐにでも銅級に上がれると信じていた。しかし日がたつにつれて位階の上昇スピードが鈍くなるのを感じ、これ以上強くなれないのではないかと不安を感じることも多くなっていった。


 自分はこの程度の存在では決してないと奮い立てる。考え方を変えた。今の俺からすればゴブリンなど取るに足らぬ相手であり、得られる経験値の量が少なくなってしまったのが原因だと。つまりより強い魔物を倒せば、今まで通り…いや、今まで以上の位階の上昇が望めるはずだ。


 そう思い、標的をオークに変えて討伐を試みた。ギルドの指針では、オークを倒すのは最低でも銅級からとされていたが知ったことではない。そして無理を押して挑んだオークに……敗北し、偶然通りがかった冒険者に運よく助けられるという醜態をさらしてしまった。


 ギルドには「ゴブリンを追いかけていたら、運悪くオークに出くわしてしまった」と報告したおかげで、罰則らしい罰則はなかった。ただ、罰則はなかったがそれ以上に惨めな気持ちで一杯だった。


 そして何よりも自身を惨めにさせた要因。それは自分を助けた冒険者が自分よりも後にギルドに所属した、自分よりも年齢の若い、『少女』という言葉が似あう年端のいかぬ子供であったことだ。


 彼女がギルドに登録をしに来た時、依頼の報告で俺も偶然ギルドに来ており、周りの冒険者が囃し立てていたのを覚えていた。自分もそれに加わった。「お前のようなガキが魔物に勝てるわけがない」と。周りの先輩の冒険者が俺の言葉に同意してくれたのがちょっと嬉しかった。


 数日後、彼女がギルドの練武場で剣を振っているのも見た。お世辞にもいい太刀筋とは言えず、依頼でちょっとした失敗をしてイライラしていたという事もあって、鬱憤を晴らすつもりで「才能がまるでない、冒険者をあきらめた方が良い」と罵声を浴びせたこともあった。


 それがどうしたことだ。彼女が俺を助けた時に見せた剣筋は、今の俺では到底真似できないほどの素晴らしいものであった。半年に満たない月日で俺よりも弱かった子供が、いつの間にか俺よりも強くなっていたのだ。


 聞けば彼女も今まではゴブリンしか討伐したことはなく、自分と条件は全く同じであったのだ。いや、期間の短さを言えば彼女の方が厳しいものであると言えた。それにも拘わらずこの差はいったい何だというのだ。


 オークから受けた傷が癒えるまでの数日間という期間、宿の中でじっと考えていた。そしてそれは『才能』という自分の努力だけではいかんともしがたいものであることに、気が付くには十分すぎるほどの時間であった。


 それでも冒険者をあきらめる気はなかった。自分にはその道しか残されていないと思っていたからだ。いや、正確には一度だけ違う道を目指すチャンスはあった。それは冒険者ギルドの職員になるという道だ。


 商業ギルドとは違い、冒険者ギルドの職員は日々荒くれ物の冒険者を相手にしなければならないため、給金は悪くないがあまり人気がある職業とはいえず、常に人手不足気味であった。


 自分は兄のスペアとはいえ貴族出身だ。幼少期からそれなりに高度な教育が施されており、読み書き算術は一通り教わっていた。まぁ、当時はかなりの悪童であり、剣で手柄を立てることしか頭になく、教育の重要性を全く理解していなかった俺はかなりイヤイヤ勉強をしていたが。


 しかし今にして思うとあれは、いずれ外に出さなければならない自分の息子に、少しでも良い就職先を選ぶことが出来るようにするための父親なりの愛情だったのだろう。


 そして、その能力を冒険者ギルドの職員として、役に立てないかと誘われたことがあったのだ。自身の剣の才能があまりないのかもしれないと思い悩んでいたこともあり、かなり心が揺らいだ。


 しかし、結局は父親の愛情にすがるのはダサいという今にして思うと理解しがたい感情に支配されてしまい、冒険者ギルドに就職する機会を自分から蹴ってしまったのだ。


 当時あの話を蹴ってしまったことが本当に悔やまれる。そこそこ腕が立ち、読み書き算術のできる冒険者ギルドの職員なんてどこの支部からでも引っ張りだこだったはずだ。


 それこそ、地方であるなら支部長まで任されていたとしても不思議ではない。いや、もしかしたらまだ手遅れではないかもしれない。この危機的状況を乗り越えるために必死に頭を働かせよう。そう決意した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ