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躱す、受け流す、弾き返す。どれが一番実力の差を明確に示すことが出来るか考えた時、そのどれでもないという事に考えが至った。俺が選んだ方法、それは掌で受け止めるというものだった。
降り降ろされる刃と自分の体の間に掌を、刃が通る位置に構える。フィリップが相応の実力者であるなら何らかの異変を感じ取り、刃の軌道を変えたかもしれない。それが出来ない程度の実力しかないという事は先刻承知のことではあるが。
俺の掌に刃がぶつかる瞬間、掌に魔力を流して防御力を底上げする。すると奴の斬撃は俺に掌を一切傷つけることなく、その場で一切動かなくなってしまった。
自分の攻撃が武器すら構えていない、しかも自分よりも格下だと思っていた相手にあっさりと防がれてしまったことに驚愕の色を隠せていない様子が丸わかりだ。ここでハッタリでも平静を装うことが出来ればまだ救いようがあったんだが…所詮は万年銅級で新人に集る事しか能のない落伍者だ。期待するだけ無駄だったのだ。まぁ期待なんか最初からしていなかったけどな。
斧をそのまま掴み取り、奴の腹に死なない程度の威力で蹴りを食らわせる。勢いよく後方に吹っ飛び、先ほどまでの威勢が嘘のように怯えた表情をしながら、ビクビクと体を震わせながらこちらを注視してきた。
「お…お前ら!何をしている!矢を射かけろ!あ、あいつをぶっ殺せ!」
あれだけ威勢よく弱者がどうのとか強者がどうのとか得意げに語っていたくせに、最後は自分よりも弱い子分に助けを求めるのか。しかし残念、すでに子分2人は無力化している。
「お…おい!さっきから何黙って…ってスライム!?なんでスライムが顔面に張り付いて…」
「それは俺がそうしろとあらかじめ命令して、この場に待機させておいたからですよ。そのためにわざわざこんな奥地までフィリップさん達を誘導したんですから。いや~苦労しましたよ。あなた方にばれないように、ギリギリで追いつけないような速度で走ることが。まさか、こんなに大変だったとは思ってもみませんでした。やはり何事も経験ですね」
「……はぁ?お、お前何言って…」
「それをあなたが知る必要はないですよ。いや、いずれいやでも知る羽目になりそうではありますがね」
そう言って、一瞬でフィリップに近づき、顎を蹴り上げて気絶させた。




