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 「任務達成お疲れさまでした、ネスさん。こちらが今回の報酬になります」


 「ありがとうございます。あぁ、そういえば一つ報告しておかなければいけないことがあって…実は先日故郷から連絡が届きまして、祖父が病にかかってしまったそうなんです。その薬代を届けるために明日から1週間ほどこの町を離れます。不要かとも思ったんですが、一応ご報告させてもらいますね」


 「分かりました。しかしお爺様がご病気とは…早く良くなるといいですね。そういえばネスさんの故郷ってどこでしたっけ?」


 「東の街道の先にある名前もないような小さな開拓村ですよ。今回たまたま同郷の人がこの町に来る用事があったとかで、運良く教えてもらったんです。その人はすでにこの町を出立していまして…自分も明日の昼頃出発する予定なんです」


 その後このギルドの職員との世間話を終えて自分の宿に帰った。物陰からフィリップの子分その1が、こちらの話を盗み聞きしていることで作戦の第1段階が無事に成功したことを、思わず笑ってしまいたくなるのを必死にこらえながら。




 翌日、予定していた時間通りに町を出て東の街道を歩いていく。


 計画通り、朝夕の最も混雑する時間帯を避けているため人通りがほとんどない。ちょうど山間部の人通りが最も少なく、また周りからの見通しも悪い場所…つまり襲撃する絶好のポイントで奴が俺を待ちかまえていた。


 「おぅ、ネス久しぶりじゃねぇか。つっても一昨日あったばかりだったか。ま、そんなことはどうでもいい。お前俺に何か隠し事してんじぇねぇか?」


 「か、隠し事なんかしてませんよ!大体何でフィリップさんがこんなとこにいるんですか!?」


 「ほぅ、あくまでしらを切りとおすつもりか。どうやら指導が足りていなかったようだな。ったく、これだからガキは嫌いなんだ。まぁいい、単刀直入に言うぞ。命が惜しかったら、お前の有り金を全部だせ」


 「お…お金なんて持ってませんよ!大体一昨日もフィリップさんに取られてギリギリの生活なんですから」


 「お前、俺に嘘つこうってのか?ずいぶん偉くなったじゃねぇか。残念だがお前が、てめぇのじじぃの薬代を持っているって話をこいつが聞いていたんだ。そんな死にかけのじじぃに使うよりも、俺がもっと有効活用してやんよ」


 「そ、そんな!このお金は…このお金だけは絶対に渡すわけにはいきません!」


 そういって街道から逸れて、脇にある山の方へと逃げ出す。奴らがあまり焦っているように見えないのは、初めからこうするつもりだったからだろう。


 つまりは俺を殺すつもりだったのだ。そうなった場合、遺体を処分する方法が一番難しい。なぜなら遺体には殺した相手の情報が少なからず残ってしまうからだ。しかし山の奥深くで殺してしまえば、その証拠となる遺体が発見されてしまう可能性がぐっと減り、自分たちの悪事が白日の下にさらされることもないからだ。


 また、山の奥には魔物が多数生息している。山の中での死体ともなれば魔物に殺された可能性も出てくるし、死体の発見までに時間がかかれば、スライムが証拠もろとも遺体を処分してくれるかもしれない。つまり奴らにとっては都合のいい展開というわけだ。


 本気を出せばすぐにでも引き離すことが出来るが、ギリギリの捕まるか捕まらないかの速度を維持しながら山の奥へ奥へと逃げていく。途中矢を射かけてくることもあったが、森の木々が邪魔をして全く俺に当たる気配がなかった。まぁ、当たってもダメージは無いのだが。

 

 しばらくの間逃げ続け、予定していた場所で足がもつれてこけたふりをする。急いでフィリップと向き合う形に体を反転させると、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。


 「はぁ、はぁ、ずいぶんと奥深くまで逃げてくれたじゃねぇか。面倒かけさせやがって。だがここまでくりゃぁもう十分だろ。手間が一つなくなったと思えばそう悪くもねぇか」


 「手……手間って何ですか!大体、こんな横暴が許されるとでも思っているんですか!こんなこと、ギルドに知られてしまえば資格はく奪の上、厳罰に処されますよ!」

 

 「くくっ、確かにギルドにばれたらそうなっちまうだろうな。だがギルドがそれをどうやって知るっていうんだ?お前が逃げ回ってくれたおかげで周りに人はいねぇ。まさかお前がチクるのか?ずいぶん面白いことを言うじゃねぇか。これから殺されるお前がそんなことできるわけねぇだろ、バーカ」


 「こ、殺すって…そんな…どうして…。どうしてそんな酷いことが出来るんですか!」


 「酷い?何が酷いってんだ?世の中はしょせん弱肉強食だ。お前みたいな弱者はしょせん俺のような強者の養分にされるのがこの世界の道理なんだ。恨むならまず、お前のその弱さを恨むんだな。せいぜい来世では強くなることを望め。じゃ、あばよ。お前の金は俺がありがたく使わせてもらうぜ」


 そういって奴の主武装である斧が降り降ろされる。フィリップからすれば手加減のしていない全力の一撃であるはずなんだが、俺からするとやけにゆっくりと振り下ろされているな…と感じてしまう。それほど奴と俺との実力が離れていることの証拠であった。つまりは殺される気が全くしない。さて、こいつをどう料理してやろうか。


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