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 ジルに俺の素性を明かしてから半年がたった。


 大量の冒険者の消息が一日にして途絶えたことで当時は情報が錯綜し、ギルドでは連日連夜会議が開かれていた。議題はすぐにでも新しい部隊を編成し情報の収集を図るのか、それとも他の都市にあるギルドからより高位の冒険者を収集してから情報の収集を図るのか、である。


 ウィルバートの町はあまり大きくない。この町にいる最高位の冒険者が金級冒険者であったため、同等の金級冒険者が消息を絶ったということもあり、下手に派遣しても彼らの二の舞になることを冒険者ギルドは恐れた。そのため、最終的には他の都市からミスリル級の冒険者が応援に来るのを待つという方向でまとまった。それはジルが遠くに逃げるだけの時間は十分すぎるほどにあった、ということだ。


 後で分かったことではあるが、襲撃者の正体がオーガであると断定すらされていなかった。何人かの冒険者はジルから逃げることが出来ていたと思っていたが、どうやら森の中で魔物に殺されてしまったのだろう。やはり夜目のきかない人間にとって夜の森は危険な場所であることを再認識させられた。


 そういったわけで、目撃者が皆無かつ冒険者達の遺体はすでにスライムに吸収されていて残っていなかったため、襲撃者に関する情報がほとんどない状況から始まった調査であった。しかし、流石はギルドが用意したミスリル級冒険者。ジルが残してしまったわずかな証拠から、『襲撃者の正体はオーガかもしれない』という調査報告書を提出していた。


 とはいえ、ただのオーガにこれほどまでの被害が出るものかとその結果に疑念を持つ人たちもいたが、最近バロック男爵領で『オーガ・リーダーによる被害が続出している』という情報もあり、この二つの事件を関連付けて、襲撃者が同一のオーガ・リーダーであるならその可能性が高いとギルドが最終的な判断を下した。その後近隣に拠点を構える冒険者達に気を付けるようにと通達があった。


 ギルドはすぐにギルドからバロック男爵領に向けてミスリル級の冒険者を派遣したが、彼らが到着することにはすでにオーガ・リーダーの姿がなく、他の場所に移動したものだと判断された。もちろん俺が事前に情報を流していた。


 すでに数多の冒険者の被害があり、また、まるでこちらの動きを予測しているかのような行動がみられることで、ギルドから『ずる賢いうえに、危機感知能力が異常に高く、そういった特殊なスキルを持っている…かもしれないオーガ・リーダー』という、ざっくりとした評価が与えられていた。


 冒険者達が派遣されたことをジルに知らせたのは俺であり、ジルのブレインは16番である。あながち的外れな評価ではないと思った。


 バロック男爵領から離れたジル達であったが、しばらくするとまた16番から定期的に大量の経験値が送られてくるようになった。新しい環境でも十分にやっていけるだろうと安堵したものだ。


 順調に物事が進み、充実した日が送れると思っていたが一つ大きな誤算があった。それは俺がまがりなりにも冒険者ギルドの一員であるということだ。


 冒険者が大量に消息を絶ったことにより、人手が足りなさ過ぎて新人である俺にも今まで以上に依頼を受注してくれという、嘆願という名の命令が下ったのだ。


 能力不足を理由に断ろうとも思ったが、ギルドの職員が死にそうな顔で拝み倒して来たのを見て、それをつい前世の自分と重ねて哀れと思ってしまったのが運のつき。渋々ながらも了解してしまった。


 とはいっても、所詮はド新人の鉄級の冒険者。受注できる依頼の種類は少なく、どうせゴブリンの討伐やら薬草の採取といった簡単なものあろうと高をくくっていたが、数日の後に銅級のタグを渡され、俺自身が知らぬ間に昇格してしまっていた。


 抗議しようにも、緊急時の超法規的処置だ、の一点張りで全く相手にされず、次の日からより高位の依頼を受注するよう無言の圧力をかけられた。


 普段からゴブリンの討伐証明の部位をかなり多く持ち帰っていたということもあり、実力的には銅級でも十分にやっていけるだろうと判断してのことだろう。


 ところが俺が冒険者という職に就いたのも、元々は身分証を作るのに最も容易であったからという邪な理由であり、階級を上げることにはあまり興味は持っていなかった。階級がいきなり上がったことで周りからやっかみがあるかもしれないと、正直なところ少し迷惑にも感じていた。


 しかし、そういったことが一切なく逆に憐みの視線を向けられることが多かったのは、ウィルバートの冒険者ギルドに所属している全冒険者がそのようなことをするだけの余裕がなかったことの証でもあった。


 むしろよくぞ昇給してくれた、待ってましたといわんばかりに討伐依頼に同行させられた。自分たちと同じ苦しみを味わう仲間が増えたことがよほど嬉しいのだろう。道中お前も大変だな、俺たちはもっと大変だぞと慰めてくれる諸先輩方もいたぐらいであった。


 そして前世からの性分なのだろう。一度受けた仕事に手を抜くという事が一切できず、周りからの期待以上の結果を残してしまう。当然だ、すでに俺の肉体能力は金級冒険者に引けを取らないほどまで上昇しているのだ。


 その結果として銅級でありながらかなりできる奴という評価を周りから与えられてしまい、上位の冒険者の依頼に同行させられる機会が多くなってしまうという、過酷な労働環境が発生してしまったのだ。


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