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「……というわけで、俺はあいつらに復讐するための力を欲しているというわけだ。なかなかに信じがたい話ではあると思うがな」
「イヤ、ソンナコトハ無イ。信ジガタイ話ダカラコソ、逆ニ信ジラレルトイウモノダ。オ前ナラ、俺ヲ騙ス程度ノ作リ話ナド簡単ニ作ル事ガ出来ルダロウ。ワザワザ、ソンナ疑ワレルヨウナ作リ話ヲ言ウ必要ハ、ナイカラナ」
「それをわざわざ俺に伝えるということは、俺のことをそれなりに信用してくれいている、と判断してもいいんだな?」
「無論ダ。タダ、元トハ言エ同種デアル人間ノ冒険者ヲ殺スコトニ、抵抗ハ無カッタノカ?」
「全くないとは言えないが、冒険者達が俺の存在と目的を知れば確実に俺と敵対する…つまりは潜在的な敵であるということだ。敵の心配をして自分の利が失われるような選択肢を取るほど、俺はお人よしじゃあない。そして今の俺にとって最も利のある行動、それは16番がお前と協力して、たくさんの経験値を稼いでもらうということだ。その為には当然、生き残ってもらわなくてはならない。だからこうして色々と手を焼いてやっているというわけだ。とりあえず、この地図を渡しておこう。見方は分かるか?」
「悪イガ、サッパリダ。ソンナ物必要ニナルノカ?」
「冒険者たちが皆殺しにされてしまったことは、遅かれ早かれギルドに知られてしまう。そうなれば当然、より強い冒険者達が派遣されてしまうことになるだろう。その時に地図を使って、俺がギルドからその派遣された冒険者達の情報を入手し念話で伝えれば、逃げることも容易になる」
「今回ノヨウニ、隙ヲ突イテ返リ討チニスレバ良イノデハナイノカ?」
「残念だがそう何度も同じ手は通用しないだろう。すでにかなりの数の冒険者が犠牲になっているからな。相手が油断するかもしれないと、こちらが油断するのは本末転倒だ。ジルはとりあえず、隣のバロック男爵領を目指して移動してくれ」
「何故、ソノ者ノ領地ヲ目指スノカ理由ヲ聞イテモ良イカ?」
「簡単だ。ここの領主であるトックハム子爵の寄親であるルーベンス伯爵領が南西の方角にいるからな。冒険者達の応援が来るとしたら間違いなくそちらの方角からやってくる。だから反対の方角に逃げるというわけだ」
「理解シタ。ダガ俺ハソコデ、何ヲスレバイインダ。冒険者達ガイナクナルマデ身ヲ隠シテオクノカ?」
「好きに暴れて来ればいいさ。いずれはバロック男爵領にも冒険者達の応援が派遣されるだろうが、そういった情報は間違いなく冒険者ギルドでも入手できるからな。派遣されそうになったら16番を通して拠点を変えろと、連絡をするつもりだ。さて、他に何か聞いておきたいことはないか?」
「イヤ、特ニ無イナ」
「それは重畳。もうじき夜が明ける。ジルは冒険者達の拠点に行って遠征の準備を進めてくれ。一通りの装備はそろっているはずだ。16番の指示に従って動いてくれ」
「了解シタ。最後ニ一ツ……オ前トコウシテ対面デ話シ合ウ事ガ出来テ良カッタト思ウ。モシ、コノヨウナ機会ガ無ケレバ、気ヲ悪クシテシマウカモシレナイガ、敢エテ言ワセテモラオウ。俺ハイツカオ前ノ事ヲ、信ジラレナクナッテイタカモシレ無イ」
「悪くなんてないさ。俺も自分の素性を一切あらわさないような奴を信頼できるなんて、これっぽっちも思わないからな」
その後、俺とジルは分かれて行動を始めた。周囲はまだ薄暗いが魔物である俺たちにとっては大した問題ではなかった。




