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冒険者達の捜索を始めて、丸一日がたった。ギルドで拠点周辺の地図を手に入れて、冒険者達の通りそうな経路を予測して眷属を派遣するという作業を何度も繰り返すことによってほとんどの冒険者を発見して、始末することが出来た。
ギルドの職員もまさか自分たちが販売している地図によって、多くの冒険者の命が奪われてしまったとは夢にも思わないだろう。まぁ彼らが消息を絶ってまだ一日しかたっていない。ジルに敗北して逃走しているという事実すらまだ知るよしもないことではあるのだが。
現在生き残っている冒険者は金級冒険者パーティーの生き残りが中心となって作られたパーティーのみであり、ここまではおおむね順調といえるだろう。だがこのパーティーを発見するどころか、痕跡一つ見つけることが出来ない。流石に彼らほどの冒険者に逃げに徹しられてしまうと発見はかなり困難である。
もしかしたら、拠点から一番近いウィルバートの町ではなく、トックハム子爵領の隣にあるバロック男爵領の町を目指しているかもしれない。しかし主要な経路を通らずにその町に行くためには、いくつかの山を大きく迂回しなければならないという問題がある。
整備のされていない道は通るだけでもかなりの肉体的に疲労がたまることに加えて、オーガ・リーダーに追撃されているという精神的負担もあり、休息もままならないことであろう。それに何よりも飲食の問題もある。準備する時間など当然なかったため、携帯食すらろくに持ち出せてはいないはずだ。まぁ、2.3日程度なら何も食べなくても問題はないかもしれないが水分はそうはいかない。
それでも、銀級冒険以上の冒険者の生命力はかなりのものであるため、しぶとく生き残れるかもしれない。しかし例外もいる。彼らの中で最大の火力をも持つマジックキャスターである。
マジックキャスターなら金級冒険といえども、身体能力だけで言えば鉄級冒険者程度しかない。もし、生き残った冒険者達がこのマジックキャスターを捨ておくという選択をとるのであれば、山を迂回して隣の領に逃げたという可能性も出てくるだろう。
しかし、彼らにそんな選択が果たしてできるのだろうか。難しいと思う。仮にオーガ・リーダーに出くわしてしまったとしたら、魔法無くしてその危機的状況を脱することはほぼ不可能であるからだ。
となるとやはり、目的地はウィルバートということになる。しかし全く見つからない。慎重に行動するにしても時間をかけすぎている。このままでは確かにジルには見つからないかもしれないが、それよりも先に食料が尽きて餓死してしまうことだろう。
しばらく考えあぐねていると、ふとあることを思い出した。もしかしたら彼らはジルが先に攻め落としていた拠点にある物資を回収するつもりではないのだろうかと。
そう考えると、ここまで慎重に行動していたことにも納得がいく。物資の補給のめどがあらかじめ立っているからだ。加えて、彼らの元々いた拠点とウィルバートの町の間に設置されているため移動の面でもかなり楽である。
オーガが冒険者達を始末した後、わざわざその拠点の物資を手間をかけて廃棄するとは考えてはいないだろうから、その可能性はかなり高いかもしれない。現在冒険者を吸収していない、手の空いてる眷属たちに各拠点の周辺に集結するように念話を送る。距離が少し離れているため、冒険者達が来るまでに間に合わないかもしれない。まぁ、ダメで元々だ。
仮に取り逃したとしても、眷属の情報を持ってはいないので俺が損をするということもないし、ウィルバートの町の町に無事にたどり着いたとしても、他の町から冒険者の応援が到着するまでには時間がかかるから、その間にジルに逃げるよう伝えることもできる。
更に半日ほど時間が過ぎたころ、ようやく最後のパーティーを発見することが出来た。ジルが二つ目に襲撃した拠点周辺だ。かなり用心深く移動しているようで、ヤマを張って眷属を集中的に運用しなければ決して発見することはできなかっただろう。
とはいえ、その拠点にはもともと冒険者達を吸収している眷属がいたので仮にこちらが捜索していなくても見つけることが出来ていたかもしれないが、それでもこうした経験も役に立つ日が来るかもしれないので、全くの無駄というわけではないだろう。
ちなみにジルは今、最初に襲撃した拠点付近で休息をしている。丸一日周囲を駆け回っていたのだ。本人は問題ないといっていたが、念のためといい無理矢理に休息に入ってもらっている。今ジルを起こして冒険者達のいる場所まで案内しないのは、下手なことをして入れ違いになってしまわないようにするためである。
などと考えていると、ようやく冒険者達が拠点に侵入し、物資をあさり始めた。ほとんど手つかずであった膨大な量の食料を前にし、安心したのか笑顔を見せる者もいた。
食料を事前に破棄するという考えも頭をよぎっていたが、必要最低限の眷属を残しほぼすべての眷属は周辺の冒険者の捜索に当たらせていたため、拠点にいる眷属だけでは到底人手が足りておらず、この考えをあきらめざるを得なかった。
もちろん火を放てば楽に焼失させることが出来るが、冒険者の遺体に飛び火して燃やされてしまうのは経験値的に勿体ないのでそのような方法はしたくなかったのだ。
それに破棄している最中を冒険者に見られでもしたら目も当てられない。知能のないといわれているスライムがそのような行動しているのを見れば間違いなく不信感を抱かれてしまうからだ。そしてその情報を持った冒険者達に生き残られでもしたら、そのような行動をとるスライムがいるという情報はギルドで共有されてしまい、俺の今後の活動に支障をきたす可能性もあるからだ。
眷属に食料を消化させれば冒険者達に見られても違和感を抱かれることはなかっただろうが、そのようなことに時間をかければかけるほど、死体の鮮度が落ちて行ってしまい、死体から得られる経験値が減ってしまうので、結局は冒険者達の補給を許してしまう結果に終わった。まぁ、何とかなるだろう。




