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 ジルに向かって放たれた巨大な火球。マジックキャスターの近くにいた冒険者達がその熱量に充てられて、顔をあぶられ少し険しい表情をしているのが見て取れる。それほどの火力なのだ、直撃せずとも付近に着弾するだけで、その余波により大きなダメージを負ってしまうのは間違いないはずだ。


 ベレスという名の冒険者が今なお死ぬ気でジルの足止めをしていたなら、直撃はせずともカスリはしたかもしれない。だが、先程のジークとのやり取りで彼に対する不信感からか、その気は失せてしまったらしい。今はジルの足止めよりも、いかにこの状況を無事に乗り切るかに考えをシフトしてしまっており、注意力が散漫している。今なら仕留めるだけなら簡単にいきそうであった。


 とはいえ折角生まれたこのほころびを、ここで紡いでしまうのは少々もったいない。まだまだ戦いは始まったばかりだ。少しずつこの小さなほころびを大きくして言って、ジルの勝利に繋げていきたい。


 少し早いが奥の手を使うよう指示する。


 するとジルの剣を持っていないほうの手が急激に伸び始めた……様に見えるが実際はジルに寄生している16番がその触手を伸ばしただけであるが、はたから見ている冒険者達にはそんなことは分かるはずもないだろう。


 その触手を少し離れた場所にいる銅級冒険者に狙いを定めて伸ばす。これまでの戦いから、オーガ・リーダーが遠距離攻撃をする術を持たないと思い込んでおり、距離があることで少し気を抜いてしまっていたその銅級冒険者は、抵抗らしい抵抗ができないまま足をからめとられてしまう。そして勢いそのまま先ほど放たれた魔法とジルの間に投げ出され……火球をその身で受けてしまう。


 魔法が着弾したことにより周囲にその余波が広がる。ジルとマジックキャスターの、ちょうど中間あたりで着弾したため、その着弾付近にはまだ幾人かの冒険者が残っていた。爆発の余波をモロに受けてしまい、また熱風に煽られてダメージを負ってしまった者もいるようだ。


 仲間が殺されたことに加えて、せっかくの完成した魔法が簡単に防がれたことに対する精神的なダメージを負った者もいる。ここにいる冒険者達は三者三様の理由により混乱に包まれていた。


 そんな中、最初に次の行動に移れたのは当然この混乱を巻き起こしたジルであった。


 ちょうど魔法を放つために開かれていた、魔法の射線を通ってマジックキャスターに接近する。大きく振りかぶったその一撃を防ぐ術は肉体能力の劣るマジックキャスターには当然ない。が、すぐに金級冒険者の盾持ちが間に入りマジックキャスターを守るように盾を構える。


 しかしジルと16番による全力の一撃は、その盾を破壊しガードに入った冒険者もろとも大ダメージを与えることが出来た。ジルの背後から他の冒険者も集まりだし、とどめの一撃を放つだけの時間はなかったが、その盾持ちの冒険者に前蹴りを食らわせ、後方にいたマジックキャスターもろとも後方へと蹴り飛ばした。


 がら空きとなってしまったジルの背中に冒険者の攻撃が直撃……することなくこれをジルは体をわずかにズラすことで、最小の動きによりこれを悠々と回避する。確実に命中すると思っていた背後からの攻撃を、オーガにあっさりと躱されてしまったことにその冒険者は驚愕していた。


 当然、ジル単体で死角となる後方の動きを完璧に察知するなんてことはできないが、16番という協力者がいるのなら可能となる。パラサイト・スライムは寄生先の生物とある程度感覚が共有されており、言葉を交わさずとも簡単な意思の疎通が可能となっている。そのため先ほどの様にジルの動きを補うことも可能となっていたのだ。


 その後ジルが体を反転する勢いを利用して横薙ぎの一閃を放つ。残念ながら金級冒険者には躱されてしまったが、幾人かの銀級冒険者には攻撃が直撃し周囲が血に染まった。中には胴を真二つにされてしまったものもいたが、剣の勢いが衰えることはなく、最後まで振り切っていたところを見るにジル達の力がいかにすごいモノなのか実感させられる。


 はたから見ると、周囲を冒険者に囲まれてしまったジルの方が圧倒的に不利とも思えるが、先程見せた死角からの攻撃を完璧に対応する術見せたことにより、攻撃をすることに対してかなり消極的になっているように見える。


 そこには当然、ベレスを見殺しにしようとしたジークに対する不信感もあるのだろう。次に見捨てられるのは自分かもしれないという不安もあるからだ。ただ救援の来る可能性が少ない中、より多くの冒険者を生かすために少数の冒険者を犠牲にするという彼の指示は間違ってはいないと思う。


 彼の人となりを知る同じパーティーのメンバーなら、言葉を交わさずとも彼がどのように考えて、どうしてそのような行動に移ったのかある程度推察が出来て、彼のことを許すこともできただろう。


 しかしこの場にいる冒険者の多くは彼の人となりをほとんど知らない。もしかしたら次の捨て石にされるのは自分かもしれない。そう考える者がいてもおかしくはないのだ。


 そしてその最たる例がベレスだ。先ほどからかなり動きが悪く、最初に見せていた精細な動きを全く見せていない。隙あらば逃げようとでも思っているのかもしれない。周囲の冒険者もそのことには気づいているはずだ。それが周りの士気をより下げることに繋がっている。


 やはり彼を生かしておいたのは正解だった。彼らの士気を徹底的に下げてもらうには彼の協力が必要不可欠なのだ。そしてそれはジルの勝利につながる。そのままでも勝てそうな気はするが、わざわざケガを負ってしまう必要もない。慎重に攻めて確実な勝利を収めてもらおう。


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