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 ギャバンの家族を殺して3日経過した。その間茫然自失となったギャバンを眺めていたが、その有様に心が洗われるような、とても清々しい気持ちで楽しい日々を送ってきたわけだが、ついに今日、とある一大イベントが終了を迎えてしまった。


 無論、ギャバンが死んだわけではない。3日ぐらい何も食べなくても死にはしないろうが、時折奴の意識を『支配』して栄養のある食べ物を食べさせていたので、奴の精神状態とは反対に肉体的には健康そのものなのだ。


 では何があったのかと言うと、民衆に処刑を任せていた騎士団の生き残っていた最後の1人が死んだのだ。そいつは騎士団長、つまりギャバンと結託し俺を嵌めた最たる人物の1人でもある。


 こいつの死に様もなかなかに楽しいものであった。全身に痣を作り、目は瘤によって塞がり鼻は潰れ、穴と言う穴から出血をしていた。簡単に死ぬことが出来なかったのは、他の騎士団のメンバーよりも位階を上げていたためであろう。それが奴自身を長く苦しめる結果になったのは、俺にとって良かったというほかなかった。


 肉体的な苦痛も勿論あるが、なによりも苦しめたのは、最後の1人と言う事もあり民衆のすべてが自身の死を望んでいたという状況であったはずだ。


 「チクショウ!さっさと死ね!」「何て頑丈な奴だ!俺を助けるために早く死んでくれよ!」「普段碌な仕事をしないくせに、最後まで俺達の邪魔をしやがって!」などと、最終的に奴に向けられていた聞くに堪えないほどの罵詈雑言が訓練所中に響き渡っていた。


 無論その罵声も俺からすれば甘美なる響きだ。ずっと聞いていたい、そんな気持ちにもなったが残念ながら俺が聞き飽きる前に奴が死んでしまった。残念な気持ちにもなったが、そのイベントを終わるタイミングで新しい催しを思いついた。


 騎士団長を殺した人間を王城の中に移動させ、ギャバンを伴って民衆の前に姿を現す。


 「諸君!君たちには残念な知らせだが、最後の1人が死んでしまった!つまり君たちに施す慈悲は無いという事だ!しかし俺は優しいからな!最後のチャンスをやろうと思う!」


 そう前置きをしたうえで、ギャバンの姿を民衆の前にさらす。


 「こいつはギャバンと言ってな、詳しい話は割愛するが俺の最たる復讐の対象者、つまり俺がこの国を殲滅しようと決意した原因がこいつにあるということだ!お前たちが1時間以内に、こいつに『自決する』と本人の口から言わせることが出来れば、ここにいる民衆すべてに手を出さないことを誓おう!」


 再び生きるチャンスを貰えたと思い、重かった空気が一気に明るくなっていた。


 「情に訴えかけるもよし!恐怖によって脅すもよし!ただし、暴力だけは禁止させてもらう!もしコイツに暴力をふるうようなことがあれば、その時点でお前たちの死は決定したものと思え!」


 民衆の中にギャバンを投げ込む。するとギャバンの周りに人々が集まり必死に語りかけている。


 初めは情に訴えかけるような内容だった。自分はまだ死にたくない、私の子供は生まれてまだ数カ月でありこんなところで死なせたくない、来月結婚する予定だったんだ。そんな内容だ。


 しかしギャバンが何の反応を示すことなく、時間が経過していくとともに民衆の焦りは大きなものになっていく。そしてその内容も過激なモノへと変化していった。


 そもそもの原因がお前なんだから責任をとって死ね!お前さえいなければ良かったんだ!お前の様な奴を生んだ両親はお前以上の屑野郎だ!そんな内容だったな。しかしそんな言葉を散々投げかけられようとギャバンに一切の反応が見られない。


 当然と言えば当然だ。奴の『体』を今『支配』しているのは俺であるからだ。ただし意識までは『支配』していない。つまり民衆から投げかけられている心無いすべての言葉は、ちゃんとギャバンの心に届いているのだ。


 『支配』していることで、奴がどのようなことを考えているのか大体分かる。早く死にたい!誰か俺を殺してくれ!どうして体が動かないんだ、『自決する』と何故言葉で発することが出来ないんだ!そんなことを延々と考えている。


 ギャバンの動く気配がみられないことから、しびれを切らした民衆の怒気が強まっていく。そしてそれに比例するように、ギャバンの心は深く深く傷ついていく。そうして時間は経過していき…ついに予定していた時刻を迎えてしまった。


 「皆さんには悪い知らせだが、時間が来てしまったようだ!残念ながら、皆の説得はこの男には全く通じなかったようだな。酷い男だよこいつは、自分が助かりたいために何万もの人間を見殺しにするのだから。しかし約束は約束だ。君たちには死んでもらうことにしよう!」


 ギャバンを民衆の中から引っ張り上げ、周囲に配備した『分体』を使い『毒ガス』を周囲に散布した。人々が悶え苦しむ様をギャバンに見せながら、奴の心がより深く傷ついていくことにとてもとても満足していた。

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