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 ギャバンの拘束を解き猿轡も外してやった。俺の渡した剣を受け取り覚悟を決めた、そんなカッコいい漢の表情をしながら家族と向き合うギャバン。


 「すまない、アンナ、ミハエル。父さんの過去の罪のせいでお前たちにとんだ辛い思いをさせてしまった。だが、これでよかったと思う。お前たちを助けることが出来るならこの命、失っても全然惜しくはない」


 「あなた…」


 「とうさん…」


 「アンナ、息子を頼む。ミハエル…母さんの言うことを良く聞き、いい子に育つんだぞ」


 息子の頭を愛おしそうに撫でながら最期の別れを告げている。見たものの涙を誘う感動の場面だな。劇であれば楽しむことが出来ただろうが、現実であれば早く終われとしか思えない。こっちもいろいろと限界なのだ。


 「そんな…ダメだよ、とうさん!きっと…きっとすぐに強い冒険者達が来てくれて、あんな奴たおしてくれるよ!」


 「そう…かもしれないな。でも、ちょっとばかり間に合いそうにないな。だからな…ミハエル。お前は父さんとは違って、真面目でいい子に育って、周りから愛される存在になってくれ。父さんは…父さんとはここでお別れだ」


 「イヤだよ…そんなのイヤだよ!とうさん!とうさん!」


 「本当に…すまない。………ホーネスト君、約束は守ってくれるのだよな?」


 「勿論ですよ。『その剣で貴方が死ねば』、俺は貴方のご家族には手を出すことはありません」


 「そうか…ありがとう、ホーネスト君。本当にありがとうホーネスト君」


 まだだ…まだ笑ってはいけない。しかしこれから起こることを想像するだけで口角が自然と上がってきてしまう。一応この体も『擬態』によって構築したモノなんだがな。表情筋?のコントロールが上手くいかない。仕方ないので手で顔の下半分を隠すことにした。見る人が見れば、感動の場面に涙を堪えようとしている表情に見えなくもない、のかな?


 そして一連のやり取りの後、意を決したようにギャバンが手に持って剣をゆっくりと持ち上げ…その剣を妻アンナへと降り降ろした。


 「……え?」


 「とう……さん…?」


 続けざまに息子も深々と斬りつけるギャバン。


 「いや~酷いなぁギャバンさんは!自分の命が助かるために、ご家族の命を平然と犠牲にするなんて!さすがギャバンさん!おれにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」


 「い…いや……これは……何かの、間違いだ………」


 力なく剣をとり落とし、よたよたと後ずさりをするギャバン。


 「間違いって何ですかぁ?今、貴方のご自身の手で、貴方のご家族の命を奪ったじゃぁないですか!そこに何の間違いがあるってんですかぁ?」


 語るまでもないがギャバンの家族を殺したのはギャバンの意志ではない。奴が剣を振り降ろす瞬間に『体』の支配権のみを奪いとり、俺がギャバンの手で自身の家族を殺させたのだ。家族をその手で殺した時の、奴の表情ときたら…まさに筆舌に尽くしがたいとはこの事だ。


 縋る様に、すでにこと切れた妻と子供にすり寄るギャバン。その様子を近くで見ていた『眷属』と、感覚を共有していた『眷属』から喜びの感情が一斉に伝わってくる。しかし待ってくれ、復讐は始まったばかりだ。この程度の事で満足なんてして欲しくない。今はまだ序章にしかすぎないのだ。


 「どうして自分が殺したというのに、そんなに後悔しているんですかぁ?いいじゃないですか、家族を犠牲に生き残ったって。昔の貴方なら、自分以外の人間がどうなろうと一切気にも留めていなかったじゃないですか」


 「ち…違う…私じゃない…私の意志ではない…」


 「貴方の意志じゃないってどういうことですかぁ?あぁ、ナルホド。つまり無意識の内に家族に手をかけてしまった、そう言いたいんですね?つまり口ではどう取り繕うと、心の奥底ではご家族の命よりも自身の方が大切だったというわけですね」


 「違う!私は…私は本気で死ぬつもりで…!」


 「でも結果は違ったようですね。百の言葉で飾ろうとも、目の前にあるのが真実です」


 そう言うと家族を抱きしめたまま、嗚咽を漏らすように泣き始めたギャバン。その声は次第に大きくなっていく。今度はその声を五月蠅いと思うことは無い。むしろ素晴らしい音楽を聞いているかのように、俺の心をとてもとても満たしてくれた。

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