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 「あなた!」


 「とうさん!」


 『支配』した人間に連れられてやってきたギャバンの家族。美人な奥さんに利発そうな子供だ。俺が苦しんでいた間に、こいつはこんな幸せな家庭を築き上げていたのか。そう思うとムカムカしてくるが、これから起こることを考えれば寛大な心で許してやることも出来る。


 「初めまして、ギャバンの奥様とそのご子息様。俺はホーネストと言います。簡潔に言いますが、この国をこのような状態にした主犯であります。その理由は、ここにいるギャバンさんに深い恨みがあったからです」


 「そ…そんな…!確かに彼は昔かなりヤンチャだったと聞きます…ですが、彼は更生して今では職場ではよい上司、家庭ではよき父として頑張ってくれているんです!それを…それをどうして!どうしてこんな酷いことが出来るんですか!?」


 「いやいやいや、馬鹿なんですか?貴方は。ギャバンが更生したからと言って、過去の罪が消えて無くなるわけではないんですよ?それにギャバンが良いことをしたことが、俺に一体何の関係があるというんですか?許しを請わなければならないのは、更生した後のギャバンが施した赤の他人ではなく、ギャバンによって苦しめられた過去の被害者の方ではないですか?」


 「そ、それでも…それでもこの人は変わったんです!過去の事は変えられない、だったらこれからの行動で今まで自分が傷つけて来た以上の人を幸せにすることで、その罪を償うんだって…!」


 「それっておかしくないですか?どうして赤の他人を幸せにすることが、罪を償うことになるんですか?実際に、過去にギャバンによって苦しめられた人が、自分以外の人を幸せにすることが自分に対する償いになるとでも言ったんですか?随分と奇特な方もいるんですね。まぁ、探せばそういう方もいるんでしょうかね?ですが俺は違います。俺は、俺に対する十分な償いがないと、到底許す気にはなれませんよ」


 「でも…それでも……!!」


 「まぁ、普通に考えたらそんな人いるわけがないですよね。結局のところそれは、自分の過去の罪を許してもらいたいと思う加害者側の、自分勝手な虚構に過ぎません。はっきり言って、罪悪感から逃れるために自分で自分を騙しているだけのことですよ」


 美人な奥さんと楽しい会話をしていると、無粋な邪魔がはいってしまう。もちろんギャバンである。口を猿轡で塞がれ『んー!んー!』としか話せていないが、どうせ家族の命だけは見逃してくれ!とでも言っているのだろう。そこで更なる邪魔が入る。


 「とうさんを…とうさんを放せ!このバケモノ!」


 ギャバンの息子が俺に啖呵を切ってきた。利発そうな、父親思いのいい子だと思う。それでもギャバンの息子だと思えば憎らしく思えてくるので不思議なものだと思った。


 「お…お願いします!どうか…どうか息子だけは…!私はどうなっても構いませんから…!」


 「いや~お父さん思いの素晴らしい息子さんじゃないですか。彼の勇気に心が打たれましたよ」


 わざとらしく自分の胸のあたりをポンポンと叩く。


 「そこでギャバンさん、貴方にご家族の命を助ける最期のチャンスを上げましょう」


 「むごっ!」


 猿轡によって上手く喋れていなかったが多分、「何!」と言いたかったのだろう。話を続けることにする。


 「これから貴方の拘束を解き、剣を渡します。その剣で自害されればご家族を見逃すことにしましょう」


 「ふんご!ふんご!」


 『やる!やる!』とでも言っているのだろうな。五月蠅そうだったので口を塞いだわけだが、これはこれで鬱陶しいな。しかし話には続きがある。人の話は最後までしっかりと聞いてもらいたいものだ。


 「ですが逆にその剣で貴方のご家族を殺せば、貴方の命を助けることにしましょう。もちろん貴方が『ご自身の意志で死を望まなければ』、という条件付きではありますがね」


 ギャバンが『何を馬鹿なことを』とでも言いたげな目をしている。まぁ、ギャバンの『意志』ではどのような選択肢を取るのかは分かりきっていることではあるがな。ただ、ギャバンの望む結果にはならないだろうという事は分かりきっている。これから起こるであろうことに、思わずにやけてしまいそうになる表情を必死に引き締めた。

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