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 おっと、忘れるところだった。せっかくの楽しい楽しい催しを俺1人で観覧するのは少しばかり寂しいものがある。そのため特別ゲストをお呼びしていたんだった。俺が『支配』した人間を使い、特別ゲストをこの場所にお招きする。


 「な…んだ、ここは…!いや、そうじゃない!頼む!俺はどうなってもいい!だから…だから家族だけは見逃してくれ!」


 10年ぶりだ、こいつの顔を直接見るのは。しかし自分でも不思議なほどに久しぶりという感じがしないな。おそらくはあの時の光景を何度も何度もフラッシュバックし、その度にこいつの顔を思い出していたためであろう。


 その地獄のような記憶も、こいつの顔を見間違えないということに役に立っていたのだとしたら、今となってはむしろ良い事だと思えてくる。そんな余裕のある感情を抱いたことに、不思議と笑みがこぼれてしまった。


 その笑みを見て、こいつが何を思ったのだろうか。もしかしたら助けてもらえる、そう自分にとって都合よく捕らえたのかもしれない。わずかにだが笑みを返してきた。相手のご機嫌を取ろうとするような、媚びへつらうような卑屈な笑みだ。その表情を見た時、その期待を裏切ることが出来ることにより大きな喜びの感情を抱いた。


 「いや~久しぶりですねギャバンさん!お元気そうで何よりです!」


 「久し……え…?お前…いや、貴方は一体…?」


 「酷いな~俺の顔を忘れるなんて。もっとしっかり俺の顔を見て、ちゃんと思い出してくださいよ!思い出してくれないと……家族が大変な目にあっちゃいますよ?」


 「な…!ま、待ってくれ!頼む、待ってくれ!絶対に…絶対に思い出すから!!」


 眉間に皺を寄せて必死に頭を働かせはじめたギャバン。知恵熱なのかよく分からないが、次第に顔が赤く染まっていき、暑くもないのに額から汗がダラダラと流れ始めていた。人間、本気で頭を働かせればこんなことも出来るのかと感心させられた。


 しばらくすると、はっと何かを思い出い出したような表情をした。しかし自分の記憶が確かならその人物はすでに故人である。しかしそれ以外には考えられない、そんなことを考えている雰囲気だ。そして絞り出すように、かすれた声を発する。


 「ホーネスト…君……か?」


 「大正解!!いや~思い出してもらえて良かった良かった。あれだけ貴方の尻拭いをしてあげたというのに、俺のことをすっかり忘れるなんて…ふふっ、本当に酷い人ですね!」


 手をパチパチと叩きながら、そして満面の笑みを浮かべながらギャバンを褒め称える。俺の気持ちが良いほどの笑みを浮かべているのとは反対に、ギャバンの表情はだんだんと暗いものになっていた。いつの間にか先ほどまで真っ赤に染まっていた顔が、白く血の気が無いものに変わっていた。人間の表情ってこんなに簡単に変わるもんなんだな。人間って…面白!!…


 「馬…鹿な……君は、確か…」


 「死んだはず、ですか?ええ、その通りです。騎士団の拷問によって俺は殺されてしまいました。いや~本当に苦しい日々でしたよ。その後色々とあって、今こうして貴方の前に舞い戻ってきたんですよ」


 「あり…得ない…」


 「あり得ないなんて事はあり得ないって言葉、聞いたことはありませんか?ホント、良い言葉だと思いますよ。クソ雑魚だった俺が、今はこうして大国と呼ばれるライアル王国の王都を相手にたった一人で喧嘩を売って、蹂躙することが出来るまでに成長したわけですから」


 「………何が…目的なんだ?…いや、言わずもがな…か…」


 「分かっているなら、そんなしょうもないこと聞かないで下さいよ。ただ、貴方に対する復讐は楽しみとして最後まで取っておこうと思っています。その前に、見て頂きたいものがありましてね?ふふふっ、きっと貴方にも喜んでもらえると思いますよ」


 そう言って『支配』した人間を使ってギャバンを立たせ、現在騎士団が民衆によって処刑されている光景を見せることにした。皆、投石に集中しているためか、俺達が来たことに気がついていない。


 「何だ…これは……!」


 「俺を拷問の末殺した騎士団連中と、嘘の証言をして俺を嵌めた商人たちです。実に楽しい光景じゃありませんか?民衆を守る騎士団が民衆によって処刑されている光景なんて、余程の事でもなければ拝むことなんてできませんからね!」


 まぁ、民衆を守る存在とは言ったが、何の罪もない元民衆だった俺が騎士団によって殺されたのだ。罪のある騎士団が罪のない民衆によって処刑されることはある意味摂理なのかもしれないな。


 「狂って…いる…」


 「まぁ、確かにそうかもしれませんね。ですが俺がこうなった原因は貴方にあるんですよ。これからこの国に訪れる災厄の根本的な原因は全て貴方にある…少なくとも貴方には、それを批判する資格はありませんよ?」


 そんな他愛のない会話をギャバンとしていると、念話が入ってきた。思ったよりもかなり早かったが、ようやく一人目の死者が出たみたいだ。順調に処刑が遂行しているようだ、満足満足。

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