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対象の騎士団の連中を生け捕りにした辺りで王国軍の戦線は崩壊、散り散りになって逃げだした。それなりの数の『眷属』と『分体』を配置しているため王都から逃げ出すことは出来ない。対象を生け捕りに出来たことで機嫌が良かったので、この場では見逃してやることにした。
『分体』を使って騎士団を拘束する。こいつらの姿を見た時、怒りに我を忘れて即座に殺す…なんてこともあるかとも思っていたが、意外なほど冷静でいられたのは自分でも驚いた。その気になればいつでも殺せる、そんな心の余裕があるからかもしれない。ま、理由なんてなんでもいいさ。
そんな事を考えながら王城を覆う城壁を『エクスプロージョン』の魔法で破壊し、王城にある大きくて荘厳な扉も魔法で破壊。意気揚々と王城の内部に侵入した時に念話が入る。
『お疲れ様っス。ボス、今大丈夫っスか?』
『おう、4番か。お前から報告があるってことは…』
『ご想像の通りっス。ギャバンと奴の家族を自分が『支配』した人間を使って、生け捕りに成功しました。『せめて子供だけは~』とかふざけたことを抜かしてやがったんで、ブチ殺さないように理性を働かせるのが大変ッした。褒めて下さい!』
『お、おう。よくやってくれたな、流石は4番だ。俺の期待通りに作戦を遂行してくれる。それにしても、何が『子供だけは~』だ。俺からすべてを奪ったというのにな、自分は奪われないとでも思ったのかあの屑は』
『全くっスよ。あと、『ホーネスト』を嵌めた商人の捕縛にも動いているんスけど、どうやら冒険者上がりの私兵がいて少しばかり手間取っているみたいっス。もう少し時間を頂ければ今の戦力のままでも十分対処可能らしいっスけど…』
『こっちから何体か『分体』を派遣しておこう。お前らにはまだまだ働いてもらわなくちゃいけないからな。その程度の雑事に時間をとられてしまうのは勿体ない』
『うっス、流石ボス。迅速な対応に感謝っス』
『眷属』から連絡を受けたついでに、王都の外の警戒をしている『眷属』にも状況を確認することにした。俺が襲撃を仕掛けた時間帯は真夜中であったが、今は少し日が出始めており少なくない時間が経過している。
大きな問題が発生していないのは連絡が来ていないことから判明しているが、これから王城を陥落させるのだ。その為に、少しでも懸念事項があれば事前に手を打っておきたかった。
『今、大丈夫か?19番』
『はい!何でしょう、ボス!』
『これから王城を攻略するつもりでな。強者がいないことは察知しているが、出来れば一切の憂いなく攻略を完遂したい。幸いなことに王都内部の戦力が過剰気味でな、そちらの人手が足りないようであれば、こちらの戦力を派遣してやろうと思って連絡したんだが…』
『こちらも何の問題も発生しておりません!すでに王都周辺にいた夜営をしている旅の商人や冒険者をかなりの数を発見し、異変に気付かれる前に始末しております。これから日が高くなるにつれその数が増えると予想されますが、現状の戦力でも十分対処可能かと思われます!』
『ん、了解した。引き続き警戒にあたってくれ』
よし、これですべての憂いが無くなった。後は王城を占拠し、国王を拘束。この国の民に目に見える形で、自分たちが敗者であることを知らしめるだけだ。
楽に殺してやるつもりのない連中はすでに拘束している。つまり当初の計画の8割がたは終了しているわけだ。作戦完了まであと少し。そのため少しばかり緊張感に欠けた状態ではあるが、最後まで気を抜かずやりきることにしよう。




