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 地面に落ちたザルバの首を拾い上げ、彼のパーティーメンバーのいる方向に投げてやった。自分たちの目の前で起きたことを理解できていないのだろう。しばらくは茫然とした後、理解した瞬間キャーキャーと悲鳴を上げて煩くなった。


 1人ぐらい激高して俺に立ち向かってくるかな…そんなことを思っていたがどうやらその様子は見られない。所詮はザルバの強さと金に集まった軽薄な女達だ。ザルバの首には目もくれず我先へと逃げ出したのだ。


 追いかけて殺すのも面倒だったので逃げ出した背中に向けて『マジック・アロー』を飛ばして皆殺しにしてやった。アダマンタイト級とパーティーを組んでいるのでそれなりの強さがあるかもと期待していたが、どうやら強さでパーティーメンバーを集めたのではなく顔と体で選んでいたようだ。


 そしてそれは、俺とザルバの戦いを観戦していた周りの冒険者達にも似たようなことが言えた。ザルバの登場で爆発的に上昇した士気も彼の敗北を知ると一瞬で鎮火し、わき目も振らずに逃げ出したのだ。


 こいつらにも『マジック・アロー』を飛ばして殲滅する。チマチマとした攻撃でかなり面倒ではあるが、大規模な魔法を放つことで万に一つの可能性で流れ弾によってギャバンを殺したくはなかった。


 そのためこの都市に襲撃を仕掛けて以降は『ファイヤー』系統の魔法と『毒ガス』の能力を封印せざるを得なかったのだ。これらの能力はかなり強力なので少しばかり勿体ない気もするが、致し方ない。


 俺の周囲に強い魔力反応が無くなったので、移動を開始することにした。目的地はギャバンの家…ではなくこの国の支配者、国王のいる王城だ。


 国が陥落したことを国民に分かりやすく、目に見える形で示すために王城を落とすことにしたのだ。もちろんその為だけではなく、その過程において王城に詰めている俺を殺した騎士団の連中を生け捕りにすることも目的に含まれている。


 冒険者ギルドの建物に面する大通りを堂々とした、そしてゆっくりとした足取りで王城へと向かう。その歩みを止める者はどこにもいない。と、その大通りに面する大きな建物に、大勢かつ強力な魔力反応を感知する。


 この建物は確か…アダマンタイト級冒険者、ゼルビアの所有する拠点であったはずだ。…なるほど、ザルバの死の報告を聞かされ正面切っての戦いは不利と見たか。そのためこの拠点に立てこもり、俺が襲撃してくるのを待ちかまえている、そんな所だな。


 恐らくこの建物内部には様々なトラップが仕掛けられていることだろう。その程度で俺を殺すことが出来ないことは分かっているはずだが、わずかでも足止めが出来れば上出来。その隙にゼルビアを含む上位の冒険者が俺を取り囲んで袋叩きにする…そんな作戦とみた。


 もちろんそんな作戦に乗ってやる義理もなければ情けもない。建物から出てくる様子が無いので、少し詠唱に時間はかかるが強力な魔法を発動させることにした。


 『ハイ・グラビティ』


 対象範囲内の重力を操作し、相手を超重力の奔流によって圧し押しつぶす魔法だ。消費魔力が大きい分効力は絶大だし、何より良いのは範囲の外に影響を及ぼすことが無いということだ。無秩序な破壊をもたらすことのできない今の状況にはぴったりの魔法だ。


 その魔法は俺の望んだ結果をもたらす。先ほどまであった立派な建物はなくなり、その場所は大通りの道とほとんど同じ高さにまで押しつぶされていた。当然そこに魔力反応は無い。わずかに俺の魔法の範囲外にあった屋根の破片が、その場所に建物があった唯一の痕跡になった。


 この建物内部にいた冒険者らの死体を回収するのが難しくなったことは残念ではあるが、ここで殺しておかないと後々面倒なことにならないとも言い切れない。余裕があるときに殺すことが出来たことをよしと思うことにする。


 これで王都にいるアダマンタイト級冒険者は残り1人。そいつはマジックキャスターであるため、距離を詰めることが出来れば『分体』でも十分に対処可能である。


 サーチ・スライムを使って所在地を確定させ、自立モードにした『分体』の内、距離の近い順に4体を向かわせている。見通しの良い平原であれば近づき切る前に相手に発見され碌な抵抗が出来ないまま殺されるかもしれないが、都市内部であれば建築物などの遮蔽物を利用すれば簡単に見つかることは無い。あいつらの働きに期待することにしよう。


 意識を正面に戻し、再び王城を目指して歩み始める。


 一歩…また一歩と、着実に復讐計画が進捗している現状に深い高揚感を感じながら歩く道は、かつて人間であった頃の俺が歩んでいた道と大きな違いはないはずなのに、とても輝いて見えるのだから不思議なものだと思った。

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