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 準備に半年ほど時間をかけた。一分一秒を惜しんで復讐が失敗すれば、元の木阿弥だ。準備には執拗すぎるほどの時間をかける。今までもそうやって来たのだから、今回もそうしなければならない。


 正直自分でも、はやる気持ちを抑えることが出来ないかもしれないと覚悟をしていたが、意外にも冷静に準備を進めることが出来た。多分、今自分がしている準備も復讐の一環であり、着実に目標に近づいているという心の余裕があったからだろう。


 それでも一つだけ絶対に心掛けていたものがあった。それは俺を殺した『兵』に近づかない事と、『ギャバン』の姿を直接見ないようにしたことだ。


 流石に奴らの姿をこの目で直接見れば、今の比較的安定しているこの感情を維持できるだけの自信は無かったからだ。そのため奴らの周りの情報収集は人を雇って行わせており、少しばかり手間とお金がかかってしまったが大した問題ではない。


 『ギャバン』の身辺調査をさせて分かったことがある。それは、俺がいた頃はどうしようもない屑野郎であったが、妻と出会った8年ほど前から心変わりし、真面目で善良な真人間になっていたことだ。


 奴も今では「昔はやんちゃだったけど今では~」と言われ、周囲からの人望も厚く、近所の炊き出しやボランティア活動にも夫婦そろって積極的に参加する周りが羨む様なすばらしい家族なのだそうだ。


 それを聞いたとき、「だからどうした?」という気持ちになった。ボランティアなどの慈善活動を積極的にする。それは今まで自分が貶めて来た人に対する償いの気持ちでもあるのだろう。


 だがそれは俺には全く関係のない活動だ。償いたいなら自分が苦しめた人間に直接謝罪し、許しを請わなければ意味がない。俺に全く関係のない人間に施すことが、俺に対する償いになるわけが無い。


 結局それは奴の自己満足にしか過ぎない。「俺はこれだけ周りの人間に施したのだ、だから俺が苦しめた人たちもきっと俺を許してくれるはずだ」なんてくそ甘い考えなら、それは大きな間違いであると断言できる。


 加害者の罪を許してやれるのは被害者だけだ。しかし俺は奴の罪を許してやるつもりは毛頭ない。俺は奴を許す気になるのは、奴に俺以上の苦痛と絶望を味わわせたときだけだ。その瞬間も、もう間もなくやって来る。実に…実に楽しみだ…!!




 『いよいよ…ですね』


 『ああ、いよいよだ。この10年長いようで短いようで…それでも何とか復讐を成し遂げるだけの力を手に入れることが出来た。お前たち眷属にも手伝ってもらうこともある。最後まで気を抜かないようにな』


 『無論です。我々はこの瞬間をずっと待ち望んでいたのですから最後の最後でヘマをするような奴はいませんよ。それは我々の本体である貴方自身が一番分かっていることなのでは?』


 『くくっ、違いない。これから待ちに待った一大イベントがあると言うのにな、もう少し気が高ぶるのかと思っていたが…自分でも驚くほどに冷静でいる』


 『それは良かった。では、私は王都周辺の警備に戻りたいと思います。不測の事態があればすぐに応援を呼んでください。まぁ、今の貴方でしたら、ちょっとやそっとの不測の事態など容易に食い破ることが出来そうですが』


 そう言って『念話』を切り、19番が王都周辺の警戒に戻っていった。そう、19番だ。こいつはライアル王国からはるか離れた場所にいた。そんな奴が何故ここにいるのか。それは俺が『進化』して手に入れた能力が関係している。


 今回の進化によって俺は、『眷属』がいる場所なら『転移』することが出来るようになった。当然、元となった魔法はアーロン様から『眷属』を通じて教わったものだ。


 何でも、『転移』の魔法で習得を難しいものにする最大の要因が、転移先の『座標』を定めるのが困難であるからだそうだ。しかし俺ならパスを意識すれば『眷属』または『分体』のいる場所ならその『座標』を定めるのが簡単であるため、条件付きではあるがかなりの短期間で『転移』を習得することが出来たのだ。


 その為最近では戦力が過剰気味になっていたランジェルド王国に配備した19番を含む多くの精鋭部隊をこの国まで連れてきたわけだ。


 もちろん呼び寄せたのはこいつらだけではない。戦力に余裕がある場所にいる『眷属』を呼び寄せたとともに、俺の『分体』でも十分に代役を果たせそうな場所には『分体』を置いて代わりに『眷属』を連れて来た。


 勿論それにも理由はある。『眷属』は俺でありながら、すでに俺とは違う個体に成長しつつある。つまり、仮に俺が個人で解決できないような状況でも、十分に相談相手になりえる存在にまで成長しているからだ。


 他にも理由はある。というより、何より重要なのは『ホーネスト』だった者達に1体でも多く、ギャバンの死にざまをすぐ近くで感じてもらいたいと思っているからだ。皆で喜びを分かち合いたい、そう思ったのだ。

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