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 ヴァンパイアの援軍が到着して1年の月日が流れた。当初の計画通りオスマニア帝国の都市を蹂躙しつくし、近隣諸国にヴァンパイアの恐怖を植え付けることに成功した。これで当面の間、ヴァンパイアを魔道具の動力源にしようなどという愚かな考えを持つものは出なくなるはずだ。


 そのためにわざわざ国境付近の都市に住む人間達には、隣国に逃走するだけの時間的猶予を与えたのだ。恐らくは逃げた先の国にてヴァンパイアの恐ろしさを周囲に喧伝してくれていることだろう。それが今後のヴァンパイアの身を守ることに繋がるはずだ。


 ちなみにヴァンパイアの兵士の数は現在1000人を超えている。どうやらエルメシア様が引き連れて来た部隊は先遣隊の一部であったようだ。日を追うごとに派遣される兵士の数が増えていき、最終的にはこれほどの数になった。


 そのため最近では俺が前線に出て戦うという機会がほとんど無く、『眷属』や『分体』を使っての情報収集や死体の吸収が主な仕事になっていた。少し物足りない気もしていたが贅沢な悩みであろう。


 ちなみに援軍やその辺りの動きは、現在ヴァンパイアの国で相談役に任命された『眷属』の働きによるものが大きいだろう。


 初めは単に『念話』による情報伝達を目的にヴァンパイアの国に派遣したわけだが、あれよあれよ言う間に国の上役との接点を持ってしまい、いつの間にかそれなりの役職を与えられるまでに至っていいたのだ。


 もちろん、ただのスライムがいきなりそのような立場に成れるわけではない。エルメシア様が連れて来たというのがきっかけに違いないが、それ以降の交流については『眷属』の努力の賜物であろう。まぁ、努力と言うほどの事はしていないが。


 何でも国の上役、つまり『トゥルー・ヴァンパイア』ともなるとその強力すぎる力のために簡単には国元を離れるということが出来ないのだそうだ。そのため俺が持つ、これまでの経験や訪れた国の話などに大きな興味を持たれ、その話をすることで『トゥルー・ヴァンパイア』から大層気に入られたのだとか。


 その話を聞いたとき、エルメシア様はどうなんだ?とも思ったが彼女は厳しい鍛錬により自分の力を完璧にコントロール出来るため、安心して国元を離れることが出来るのだそうだ。強すぎる力を持つのも考え物だが、それもまたぜいたくな悩みだと思った。


 当初オスマニア帝国の隣に位置する国々は、国境を接する都市に軍を派遣こちらの動きに慌ただしく備えていたが、こちらが国境を越え侵攻する意思がないことをしばらくして気が付いたのだろう。依然として備えは残しているものの一時期ほどの慌ただしさを見せることは無くなっていた。


 『教会』からは『テンプルナイツ』からなる軍が派遣された。加えて道中で多くの腕利きの冒険者を雇ったのだろう。オスマニア帝国に入るころにはかなりの軍勢に膨れ上がっていた。装備は統一されておらず統率の取れた動きはしていなかったが、個々の質が高くこれを撃破することは簡単にはいかないだろうと当初は予想されていた。


 だが相手が個々の連携が取れていないいのであれば、逆にこちらは統率の取れた動きで奔走してやろう。そう思った俺は『分体』を大量に用意しヴァンパイア達に配りまくった。


 そこからは俺達の独壇場だ。俺が本来のスライム形態に戻り、テンプルナイツや冒険者達が陣を張っている場所に潜入。敵陣の中から指揮をとりヴァンパイア達に強襲させた。


 陣というものは外からの攻撃に対しては強固の構えをとれるが、内側からの攻撃には弱い。いや、正確に言えば陣中にいた俺は襲撃に参加してはいないが、内側からだとどこが弱点なのか意外なほど簡単に判明する。


 そこを『分体』を使って情報をヴァンパイア達に伝え、的確に攻撃させることで思いのほか簡単にこれを撃破することが出来た。装備品が統一されていなかったのも大勝の一因だろう。人間からすれば誰が見方で誰が敵なのか、一目で判断する事が出来なかった。その隙に被害を拡大させていき…それでもかなりの数の人間に逃げられはしたが、強襲したのは夜である。


 夜目の効かない人間を夜間に追撃することはヴァンパイアからすれば朝飯前だ。執拗なほどに追撃を加え、日が明けるころには近隣にはおびただしい数の人間の死体を拝むことが出来た。


 情報収集にかかった時間よりも死体を吸収することに使った時間の方が遥かに長かったぐらいだ。死体の鮮度は俺からすれば重要だ。やはりここでも役に立ったのが『分体』であり、死体を新鮮なまま吸収できた。


 そんな感じで常時戦場と隣り合わせの生活を送っていたためであろう。『進化』の兆しが見え始めたのだ。これは嬉しい誤算であった。

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