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「くそ!何だよ!何で誰も俺と戦おうとしないんだ!この卑怯者共が!」
『ブルサレム』に襲撃をかけた俺達一行。かなり早い段階で襲撃者の存在に気づき、即座に迎撃に来たアダマンタイト級冒険者『アナベル』君を無視し、俺達は都市の蹂躙を優先させた。
当然俺たちのそんな動きを黙って見過ごされるはずもなく、かなりの遠方から俺達に襲い掛かってきた。が、これをエルミナさんが軽くいなし、俺達は無事にアナベル君からの逃走に成功させる。彼の姿が見えなくなった辺りで再び都市への攻撃を開始した。
アナベル君を避けながらも俺達の攻撃は止まらない。兵士らの駐屯地や冒険者が多くいる地区の粗方の破壊を終えたので、ここからは別々に行動し都市の壊滅に当たることにした。
それにしても「卑怯者」か。戦いにおいて卑怯もへったくれもあるものか。勝てば官軍負ければ賊軍。最後まで立っていた方が正義なのだ。敗者がなんと言おうと、それは負け惜しみにしか過ぎないのだ。
「うっし、んじゃぁここからは別行動だ。念のため言っとくがあのアダマンタイトはそこそこ強い。最低でも二人一組で行動しろ。下手こいてやられそうになったら、首に巻いた『新入り』に頼んで援軍を呼べ」
「了解です。ですが…先ほど見た感じだと、聞いていたほど強そうには見えませんでしたね。エルミナにあっさり無力化させられていましたし」
「いや、そこは俺が強いからってことでいいんじゃねぇのか?…で、どうなんだ?新入り」
「確かに先ほど見たアナベルという冒険者は、俺がこれまで見て来たアダマンタイト級冒険者の中でも一番弱いと感じましたね。間違いなく並のミスリル級冒険者よりは強いですが、アダマンタイトを名乗るのは少々心もとないかと。恐らくは、冒険者ギルドが下駄をはかせたのではないでしょうか」
実際、冒険者ギルドが実力に見合わない級を与えるという話は極稀にだが存在している。理由は様々であり、将来有望そうな冒険者の級を上げることでやる気を出させるためであったりだとか、単に話題作りのためのということもある。
今回のアナベル君の場合だと、恐らくだがこの都市にある冒険者ギルドの面子を守るためである気がした。オスマニア帝国の5番目に大きな都市。肩書は立派であるが比較的王都に近いということもあり、実力者の多くは依頼の量も質もより高い王都に拠点を置いたはずだ。
そのため少し前までこの都市にはアダマンタイト級冒険者が在籍していなかった。しかしそれではこの都市のギルド長の面目が経たない。そのためミスリル級冒険者より上の実力を持つアナベル君をアダマンタイト級冒険者に据えることで、面子を立てることことにした。…十分ありえそうな話だな。
この国ではヴァンパイアの脅威に対抗するため昔から『教会』と深いつながりがある。『協会』はその強権を活かし『冒険者ギルド』に過度な干渉をしていた、だがそれはギルドからすれば少々面白くないことだ。そう言った諸々の理由が重なり…と、そんなところかな。
「ま、理由は何であれ俺たちの計画に変更はありません。こうやって集団で集まっているとアナベル君に見つけられやすくなりますからね、さっさと離散して行動に移りましょう」
「違いねぇ。うっし、んじゃ行動開始だ!」
エルミナさんがそう言って事前にチーム分けしておいたメンバーに分かれ、各々の襲撃地点へと散っていった。ちなみに俺とエルミナさんは戦力的な兼ね合いもあり、1人で行動している。
そんなわけで俺が割り振られた襲撃地点、都市長のいる行政区画へと向かうことにした。重要な施設がいくつもあり、そこに配備された兵士たちは他の場所に配備された兵士よりも練度が高いというのが事前の調査で分かっていたことだ。
とはいえ俺から言わせれば普段は安全な都市の中で人間相手に仕事をしている、殺すことも殺されることもない生ぬるい世界で生きてきた連中だ。その強さは普段から城壁の外に出て魔物を殺し位階を上げている冒険者の足元にも及ばない。
向かってきた兵士を2・3人ほど倒した時点で、俺の興味を引きそうな強さを持っていそうな兵士がいないことを否が応でも認識させられる。やる気が喪失したので『毒ガス』を散布して一気に殲滅した。
想定していた時間よりもかなり早く俺の持ち場の作業が終わったので、苦戦している奴らの援軍にでも行こうかと『分体』に意識を向けたが…苦戦しているような場所は無かった。圧倒的じゃないか、我が軍…ではなかった、仲間たちは。
深夜に襲撃をかけて、夜が明ける前までにこの都市の殲滅作戦は無事に終了した。住民の生き残りもいたが、『毒ガス』もこの都市を覆うほどの量を蒔いたので日が昇りきる前までに生き残りはいなくなるだろう。
ちなみに当初の予定であったアダマンタイト級冒険者を誰が殺すのか、という勝負はエルミナさんの負けで終わっていた。敗因は想定よりもアナベル君が遥かに弱かったからだそうだ。すでに一度刃を交えたはずなんだがな…強さを見誤ったらしい。
何でも今後の事も考えて強者を生け捕りにする訓練をしていたところ、いつの間にか興に乗ってしまい勢い余って殺してしまったのだとか。訓練をするというのは良い事だ。今回は失敗したみたいだが、こんな勝負に負けても失うものなどないに等しいからな。彼女の今後の活躍に期待しよう。




