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先程から冒険者達の設置した鳴子がカラカラと鳴り続けており、こちらの襲撃はすでに察知されていることだろう。トラバサミやくくり罠のようなものもあったが、その罠にかかってもなおジルを足止めすることすらできず破壊されていった。
こういった罠も一応は対オーガ用の頑丈なものを用意していたはずだが、進化したジルがものともとしていないところを見るに、やはり進化による能力の向上は素晴らしいものであると実感が出来た。
視界が開け、冒険者達の姿を捉える。多少慌ただしさを感じるが、皆装備に身を包んでおり迎撃態勢を調えている。鳴子が鳴ってからここに到着するまでそれほど時間がたっていないことを考えると、恐らくはここの冒険者達は装備を着たまま睡眠をとっていたのかもしれない。
金級冒険者の指示によるものなのか、そのことだけをとってもやはり先に潰してきた拠点の連中とは違うと認めざるを得ない。ただ、討伐対象がオーガと聞いていたにもかかわらず、オーガ・リーダーが襲撃してきたことに少なからず動揺していることが容易に見て取れた。
目下、最大の問題になりうるマジックキャスターを探す………いた。冒険者達が周囲を警護するように囲んでいるため思いのほか早く見つけることが出来た。距離がまだ少し離れているため、まだ魔法の演唱に入っていないようではあるが、いつ魔法がとんでくるか分からない。ジルに注意を怠らないように伝える。
「角が二本……オーガ・リーダーじゃねぇか!どうなってやがる!依頼の内容はオーガの討伐だったはずだ。まさかトックハム子爵が依頼料をケチるために嘘の討伐依頼を出したんじゃないだろうな!?」
「流石にそれはあり得ない…と思う。嘘の依頼を出すことのデメリットを子爵が知らないはずがないからな。しかし……いや、もしかしたら、そういうことなのか?しかしそうとしか…」
「おいおい、何一人で納得してんだ?何を考えているのか俺たちにも教えてくれ」
「簡単な話だ。あのオーガ・リーダーは間違いなく俺たちの討伐対象であり、討伐依頼が出されたときは間違いなくオーガであったが、依頼が出されてから今日に至るまでの間に進化したというだけのことだ」
「……!なるほど、確かにその可能性の方が子爵が嘘の依頼を出したという可能性よりも高そうだ。しかし進化出来るだけの大量の経験値をいったいどこで手に入れたんだ?ここ数日森の中をくまなく探索したが、そんな大量の死体を見つけたという報告、どこの拠点からも上がっては来ていないぞ」
「その報告はいつ受けたんだ?」
「昨日の昼頃、物資を運んできてくれた連中が定期報告してくれたときだ…ってそもそもリーダーであるお前も一緒にその報告を受けたじゃないか。つまりあれか?昨日の昼から今に至るまでの間に進化に必要な経験値を獲得したといいたいのか?それは流石にあり得ないだろ。第一ここら辺の地理を一通り捜索をしたけど、そんな大量な魔物のいる集落なんてなかったぞ」
「『魔物の集落』は確かになかったな。だが『人間の』はどうだ?」
「いやいや、こんな人里から離れた森の中に多くの人間が住んでいるわけないだろ。仮に居たとしても俺たちのような……まさか!」
「ああ、恐らくはそのまさかだろう。ここを除く他の拠点の冒険者を殺して進化した、そう考えるのが自然なんだろうな。腹立たしいことではあるが…」
「くそっ!魔物の分際でなんてずる賢い野郎なんだ」
「今愚痴るのはよせ。奴から注意をそらすな……お前ら、話は聞いていたな!他の拠点から援軍が来るという可能性もなければ、ここから一番近い人里までどんなに急いでも半日はかかる距離にある…つまりここにいる戦力だけで奴を倒さなければならないということだ!なぁに、オーガ・リーダーと言えども所詮は単騎だ。長期戦に持ち込めば必ずこちらが有利になる。焦らず攻めれば必ず勝機はあるんだ!奴の首を持ち帰って、子爵から追加の報酬をたんまりもらって、ぱ~っと打ち上げをしようじゃないか!遠距離攻撃できる奴は攻撃を開始しろ!傷を負わせる必要はない、多少なりとも牽制できれば十分だ。ジャンは魔法の咏唱に入れ!盾持ってる奴はジャンを死守しろ、絶対に奴を近づけるな!」
「「「応」」」
優れた洞察力に、的確な判断能力、統率力も悪くない。金級冒険者パーティーのリーダーを任されているだけのことはあるなと納得させられた。名前は確かジークとか言ったか。それでも、負けるつもりは毛頭ないが。




