表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/271

247

 国王とその家族を、捕らわれ魔道具の動力源とされていたヴァンパイア達と同じような状態にする作業と言うのは思いのほか時間がかかってしまい、作業が終わる頃にはすでに他のメンバーが自分の請け負った場所の襲撃がすっかり終わった後だった。


 当初の目的は無事に完了し、次なる作戦を計画するために全員が一度集まることになった。集合場所は俺達が今いるここ、つまり王城だ。他の地点を襲撃したメンバーにも、国王等の現状を見せて溜飲を下げさせることも目的の一つだ。


 そしてその目的は十分すぎるほどに達成されている。俺達の元にきた連中は足元に転がる肉ダルマに疑念を持った表情を見せ、その正体を知ると皆一同に笑顔を見せていた。


 「それで、どうするんだこの肉ダルマ。ここに放置するのも悪くは無いが、簡単に死なれてしまうのも面白くないぞ。俺らの同胞は何十年と苦痛を味わったはずだ。こいつらいも同等以上の苦痛を味わってもらわねぇと気がすまねぇ」


 「同感だな。ここに放置していたら数日もすれば餓死、もしくは病気にかかって、くたばっちまうだろう。人間は脆弱な生き物だからな。かと言って、こいつらを生かしておくために俺たちが世話をするのも面倒だし」


 「となると…こいつらを俺たちの国に持って行かなきゃならんかもしれんな。評議会に報告する必要もあるしな。その時にこいつらの現況を見せりゃ、例え遺族であってもこいつらを殺そうとするやつはいないだろう」


 「でも持っていくってつってもよ、そこそこ重量があるぞ。そりゃ手足を切り落としてるからその分は軽くはなっているが…それに雑に運んでると、下手したらその衝撃で死んじまうかもしれないぞ?」


 「それはそれで面白くねぇな…なぁ新入り、何かいい考えがないか?」


 いきなり話を振られてしまった。それにしても俺の呼び名は依然として『新入り』だ。ちなみに俺の前に『新入り』という名で呼ばれていたのはゲオルグ君だ。他のヴァンパイア達は親愛の情を込めてそう呼んでいたわけだが、ゲオルグ君はそう受け止めることが出来なかったらしい。


 馬鹿にされていると感じていたようだ。功績を上げれば誰もが自分を認める、だから功を焦って下手を漕いでしまったというわけだ。ヴァンパイア達が俺を『新入り』と呼ぶのは、ゲオルグ君が死んだ悲しみを埋める為なのかもしれない。改めて彼らが情に厚いのだと感じた。


 「ここ王都に、我々の拠点を構えるというのはどうでしょうか。他の都市を攻略するための足掛かりとして考えれば、この地は大きな街道も近くにあり交通の便も非常に良いと思われます」


 「うん?拠点を構えるのはどこでもいいんだ。まずは国王の処遇をどうするかを決めたいんだが…」


 「この地を拠点と定めるのなら、この地からこの肉ダルマを移動させなくても問題ないと思います。この肉ダルマの面倒は、攻め落とした街の領主である貴族にでも見てもらうことにしましょう。『この肉ダルマを死なせたら次はお前が肉ダルマになる番だ』、そう伝えておけば全身全霊で面倒を見てくれると思いますよ」


 流石に、ただの民間人にその過酷な介護をさせるのは少々気が引けたのだ。もちろん多くの貴族もヴァンパイアにしてきた処遇について民間人同様知らないだろうが、誰かが責任を取らなければヴァンパイア達の気が済むことは無い。その責任を負うのは、民の代表である貴族以外には考えられないというわけだ。


 これからこの国にある様々な都市や街を襲撃する時、民間人にも多くの死傷者が出る。苦しむことなく逝かせてあげる。それが今の俺にできる最大限の慈悲であった。


 「なるほど…それは悪くなさそうだ。だが1つ聞きたい。本当にこの肉ダルマの面倒を見た貴族連中は見逃すのか?」


 「まさか。どれほど懸命に面倒を見ていたとしても、長くても数年ぐらいしかこの肉ダルマは生き続けることは出来ないでしょう。それでは、捕らわれていたヴァンパイアの方々と同等の苦痛を味わったとは言い難い」


 「当たり前だ。最低でもその十倍は苦しめてやらねば気が済まねぇ」


 「ですので、すべての罪を国王擦り付けるのではなく、この国の貴族らにも分散して罪を償って頂こうかと思いまして」


 「つまり国王が死んだらその責任を取らせて、そいつも肉ダルマにする。んで、そいつも死んだら次の貴族を…と言った感じにするって事か?」


 「はい、どのみちこの国の貴族たちを生かしておく理由はありませんからね。すべてが終わった時、捕らえおいた全貴族を肉ダルマに加工し隣接する国々に送り付けます。ヴァンパイアに敵対した連中は凄惨な末路をたどる。それを周辺国家に周知徹底させることで、人間がヴァンパイアに対し愚かな行いをする意思を挫いてしまいましょう」


 もちろんすべてが上手くいくとは言い難いが、ある程度の抑止力にはなるはずだ。そしてそれはおそらく、何十年後、何百年後になるか分からないが、この地に再び興るであろう国家に対する警告にもなるはずだ。そしてその分だけ『ヴァンパイア』の身が安全になると思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ