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「貴様…何が目的でこのような騒ぎを起こした!」
「それは…微妙に答え難い質問だな。俺の『目的』は俺が強くなることだ。そのための手段は問わないが、それは今回の『騒ぎ』を起こした理由ではない。自分が強くなるために騒ぎを起こす必要が無いのなら、俺は騒ぎを起こす気は無かったからな。騒ぎを起こしたのはあくまでも『ヴァンパイア』達の意志によるものだ」
「『ヴァンパイア』…だと…?何故貴様があのような罪深き者達の見方をする!?そして何故!『ヴァンパイア』共が我らにこのようなことをするのだ!?」
「いやいやいや、アンタらと『教会』のしでかしたことを鑑みれば当然だとは思う…あぁ、ナルホド。王の側近であるアンタたちにも真実を知らされていないのか。自分たちにとって不都合な事実は後世には残さない、書面でも言伝という形でも、か。実に人間らしい在り方だ」
「真実…?貴様何を言っている!」
「ふ~む、どうやら本当に何も知らされていないみたいだな。真実を知っているのは国王と『教会』の関係者ぐらいなのかな?まぁ、それも当然と言えば当然だな。どこから真実が漏れるか分からない以上、必要以上に真実を知っている人間を増やすのは得策ではないからな」
「………」
「しかしそうなると、お前たちの今までの豊かな生活は、お前たちが悪と断ずる『ヴァンパイア』達の犠牲の上で成り立っているという真実を知らないまま殺されることになるのか。その事だけはちょっとだけ同情するな」
「…総員構えろ。奴は人間の姿をしているが人間ではない。これ以上の問答は意味がない。即座に奴を排除し、陛下を追いかけるぞ!」
敵は全部で7人。マジックキャスター2人と前衛職が3人に弓兵1人に斥候職が1人。実にバランスが取れたパーティーだ。
そしてその全員がミスリル級冒険者相当の実力を有していると見た。彼ら全員でかかればアダマンタイト級冒険者以上の戦力にはなるだろう。流石は魔道具の製造販売で大きな利益を得ている大国だ。国王の身辺を守る兵士の質が高い。
少し前までの俺なら即座に徹底か援軍を呼んでいただろう。しかし今の俺ならこいつらにも問題なく勝つことが出来る。まぁ、戦闘技術を磨くための練習台とすれば少々相手が悪いが、初めから殺すつもりで戦うなら苦戦すらしないだろう。
前衛職の2人と斥候職が目配せをして同時に三方から俺に斬り掛かってくる。残り前衛職は大きな盾を持っておりマジックキャスターの防御に回ったようだ。そのマジックキャスターはすでに魔法の咏唱に入っている。
斬りかかってきた3人を軽くいなしながら連携の隙を誘い、そこを突こうとするとちょうどそのタイミングで矢が飛んできて邪魔をする。全体を俯瞰して見ることのできる良い後衛だと素直に感嘆した。
しばらくの間じゃれている(俺の主観)と、ようやく魔法の咏唱が終わったようだ。この状況で放つ魔法だ。牽制攻撃する余裕は彼らにはない、恐らく彼らが知る魔法の中でもトップクラスの威力を誇っているはずだ。
もし俺の知らない魔法であるなら、このマジックキャスター達は『同化』することにしよう。そしてその『魔法』をいただく。期待しながら魔法が放たれる瞬間を待つ。
「『アストラル・バインド』!」
「『フレイム・ジャベリン』!」
拘束系の魔法と魔力系の魔法だ。『フレイム』系統は『ファイヤー』系統の上位種で魔力消費量が増大するかわりに高威力を誇る。魔力の宿らない鉄の盾なら瞬時に溶かすことが出来るほどの高火力だ。
しかし俺からすれば少しばかり残念な魔法だ。生物を殺すことに、鉄を溶かすほどの高い火力なんて必要ない。そんな事に大量の魔力を消費するぐらいなら『ファイヤー』系統の魔法を広範囲に展開し、盾を持つ人間の肺を焼いて無力化する方が遥かに効率がいい。
魔法に強い耐性を持つ魔物に遭遇すれば剣で倒すことのできる俺からすれば、消費魔力を代償に威力のみを追求した魔法と言うのは少々使い勝手が悪いのだ。効率よく相手を倒す、それが俺の目指している到達点だ。
そして残念ながら、このマジックキャスター達が放った魔法は両方とも俺は使うことが出来る。つまり彼らを『同化』する意味が無いという事だ。
『アストラル・バインド』によって俺の体に巻き付いた光の鎖を膂力のみで破壊し、飛翔してきた『フレイム・ジャベリン』を魔力を宿した剣で打ち払った。これには兵士らもかなり驚いたようだ。
その隙に俺の足止めをしていた3人を即座に殺し、体勢を立て直そうと指示を出していた最後の前衛の1人も持っていた盾ごと斬り殺した。この時点で、前衛がいなくなったことで詠唱が必要なマジックキャスターは無力化したと言ってもいいだろう。
俺に向かって飛翔する矢を最小の動きで回避しながら後衛に控えていた弓兵も接近し斬り伏せる。最後にそれを見て逃走を開始したマジックキャスター2人に悠々と追いつき、これも背後から斬り殺した。もう少し時間をかけても良かったんだがな、思いのほか短時間で片付けてしまった。




