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 「うっし、王城の前まで来たわけだが…で、誰が国王を殺すんだ?」


 「あの~俺は辞退します。皆さんほどこの国の王に深い恨みがあるわけでもありませんからね。俺は皆さんの行動がやり易くなるよう、有象無象の連中を殺していきますよ」


 あくまでも俺の主たる目的は多くの経験値を得ることだ。国王なんて碌に経験値を持っていないだろう。ここは他のヴァンパイア達に譲ることで、彼女らの好感度を稼ぐことを優先した。


 「ん。1人脱落だな。んじゃ、残った奴らの誰かが殺すわけだが…どうやって決める?言っておくが、それほど時間があるわけじゃないぞ」


 「公正にくじ引きなんてのはどうでしょうか。決定権を人の意志の及ばない、神の意志に委ねることで真に復讐を成し遂げたいと思う人が選ばれる…そうは思いませんか?」


 「うわっ、メンドくせぇ。もう早い者勝ちでいいんじゃねぇか?あと腐れも無いだろ」


 「同意する」


 と、口々に同意の意志を示すヴァンパイア達。くじ引きにするという提案をしたヴァンパイアも消極的ではあるが同意したようだ。


 「決定だ!それじゃ…行動開始!」


 合図と同時にもすごい速さで突撃していくヴァンパイア達。王城の大きくて頑丈な扉もヴァンパイアからすれば物の数ではない様だ。これを易々と打ち壊し、城の中に我が物顔で突撃していく。そして王城中に鳴り響く警鐘音。ヴァンパイア達があまり人の目を警戒していないところを見ると、彼女らの強さからすれば王城の兵士など障害になりえないということか。


 そんな事をぼんやりと考えていると、移動を開始していない俺の周りに兵士たちが集まり始めた。確かに騒ぎが起きた現場はここではあるが、その元凶はすでに移動を終えてこの場所にはいない。俺を倒す前にそのすでに移動してしまった元凶をどうにかした方が良いわけだが…そんなこと兵士達が知っているわけがないか。


 「何者だ貴様!大人しくしろ!」


 と、威勢よく大声を張り上げた口に髭を蓄わえた偉そうな兵士。いやいや、そう言われて大人しくするぐらいなら初めからこんな場所に来ないよと、そうアドバイスしてあげたい気分になった。してあげたら間違いなくキレるだろうけど。


 ただ、そのアドバイスが役に立つ日はこない。今ここで、俺が彼らを殲滅するのだから。返答は言葉ではなく行動で返してやった。


 「『飛空斬』!」


 ベルサレム卿が使っていた剣術の一つで、剣を振り抜く瞬間に己の魔力を剣に乗せることで斬撃を飛ばして攻撃する技だ。威力が低い分連発が可能で、また消費魔力が少ないので同じく遠距離攻撃である魔法とは違った使い道がありそうだと期待している。


 彼を『同化』して詳しい使い方は分かったが、未だ彼ほどの習熟度は無いのでこの城にいる兵士を練習相手にしようと思っていたのだ。


 練習のつもりで放ったわけだが効果のほどは意外にも上々であった。進化によって、『同化』することで相手の能力の習熟度も、ある程度は引き継ぐことができるようになっているのだろう。俺の繰り出す飛ぶ斬撃によって兵たちが次々と肉片になっていく。


 このまま彼らを全滅させるのは容易いが、それでは少々味気ない。ならば他の技も訓練をしよう。『麒麟』から獲得した電撃を斬撃に乗せることで、雷を纏った斬撃を飛ばす訓練に移行した。


 …これはあまり上手くいかないな。ただ、絶対に成功しないという感じでもなく、練習していけば何とか習得できそう…そんな感じだ。


 残念なことに先ほどまでとは違い剣を振っても飛ぶ斬撃が発生していないという、少しばかり滑稽な状態になってしまった。はたから見れば素振りをしているだけだからな。それを見た兵士たちはどうやらこれ以上飛ぶ斬撃を放つことが出来ないのだと判断したようだ。少し前まで及び腰だったくせに、急に勢いづいて俺に襲い掛かってきた。


 「今だ!かかれ!」


 「奴はもうあの飛んでくる攻撃は出来ない!死んでいった仲間たちの仇をとるんだ!」


 人間は危機的な状況に陥れば陥るほど、己の信じたいものを真実だと信じこんでしまう生き物だ。今回の場合だと、俺がこれ以上飛ぶ斬撃を放つことが出来ないという虚構を、兵士たちは真実だと信じたいから信じている、そんな感じだ。そこに確たる証拠と根拠は必要ないのだ。


 もちろん『飛空斬』で切り殺すことも出来たが、俺は優しいからな。『自分達にとって』優しい嘘を、つまり『飛んでくる斬撃』を放つことが出来ないという嘘を信じこんだまま逝かせてやることした。


 「『螺旋斬』!」


  たった今思いついた、剣技と魔法の合わせ技を発動することにしたのだ。『飛ぶ斬撃』はこれ以上こない、それを真実なものにしてやった。兵士たちを待ち受ける運命に変わりはないがな。

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