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 贖宥の間の扉を開け広げると、冒険者風の一人の青年がいた。ヴァンパイア特有の蝙蝠の様な翼が生えているようには見えないが、伝え聞いた話だとヴァンパイアは翼の出し入れは任意で出来たとのことだから正体を見破られないためにあえて仕舞っている可能性もある。


 少しづつ距離を詰めながら、警戒されないよう出来るだけフレンドリーに話しかける。こいつが結界の魔道具を停止した襲撃者に違いないだろうが、そんなことにすら気が付いていないような、馬鹿で善良でお人好しな『教会』の関係者を演じることにする。


 「君、大丈夫かい?ここは危険だ、襲撃があったそうなんだ。今すぐここを離れるよ、僕についてくるといい」


 何を言っているんだこいつは?そう言いたげな表情をしているな。僕だってこんな三文芝居、好きで演じているわけじゃない。そうして少しずつ近づいていき…一気に間合いを詰め斬り付ける。


 狙いは足。仮にこいつがヴァンパイアでも足を切り落とされてしまえば、回復するまでに時間はかかり逃走は困難になるだろう。人間であったとしても、死ぬことはない。何より良いのは傷の治り具合を見ることでその正体が判明する事だ。


 僕の素の強さだけでもアダマンタイト級冒険者を凌いでいる。加えて『教会』から貸与された数々の高性能な魔道具で身を固め、戦闘力はさらに高まっている。仮にこの青年がヴァンパイアの中でも上位の強さであったとしても僕のこの斬撃を簡単に防ぐのは不可能だ。


 そう思い放った斬撃は……片手に持った剣で弾かれ、反撃とばかりに前蹴りが放たれる。体を反らすことで躱すことは出来たが、全力でなかったとはいえ僕の攻撃を防がれたことに少なくない動揺を覚える。


 「これは…少しばかり驚かされたね。君のことを少しばかり過小評価していたみたいだ。やはり君はヴァンパイアという事なのかな?ただの人間に僕の攻撃を防ぐことが出来るわけがないからね」


 正直、この青年の正体がなんだっていい。重要なのは生け捕りに出来るのか、そうでないかだ。僕の攻撃を防いだことで、こいつは一定以上の強さを持つということが判明した。かなり手荒く扱っても死にはしない、つまり手加減は必要ないという事だ。会話を挟むことで、後方にいる配下たちに魔法を詠唱する時間を稼ぐ。


 無論僕1人の力でも倒すことは出来るだろうけど、無力化し拘束するのは少しばかり骨が折れそうなのは事実だ。当然それなりに時間も必要となる。今最も重要なのはすぐにでも結界を展開し直すこと。僕はその場の感情に流されず、為すべきことを為す。


 「俺の正体か…当然人間ではないし、ヴァンパイアでもない。かと言って、ただの……でもないしなぁ。俺の正体を知りたいのは、案外俺自身なのかもしれないな」


 何だ、狂人の類か。言っている意味がまるで理解できない。こいつを捕らえても、碌な情報を吐き出させることが出来ないかもしれない。ただ彼の様子からだと、『教会』に所属する敵対勢力の可能性が高まったと感じた。


 確か『教会』の研究成果の中に、「亜人種を洗脳する」と言ったものがあったはずだ。恐らくその技術を人間であるこいつに転用して、僕たちに敵対する勢力が今回の襲撃事件を企てたのかもしれない。


 彼の素の実力はミスリル級冒険者程度だろう。そこに『教会』が管理する「寿命を代償に身体能力を飛躍的に向上させる」薬物を併用する事で、今回限りの捨て駒として使ったのかもしれない。


 未だ見つかっていない研究員の安否は気になるが、それは後から考えることにしよう。まずは目の前のこいつをどうにかする。そろそろ僕の配下達の詠唱が終わる頃合いだ。彼がいかに身体能力を向上させていようとも、この距離を即座に埋める手段などあろうはずがない。


 「後方にいる連中の詠唱が終わりそうだな。まずはそちらから対処することにするか。『ファイヤー・ストーム』!」


 「なっ……!あり…えない……!」


 轟音と共に飛翔する、ものすごい熱量を持った竜巻。これほどの魔法を瞬時に発動するなんて…それだけでもアダマンタイト級冒険者に匹敵する実力者だという事だ。


 次々と炎の渦に飲み込まれていく配下を見て即座に考えを切り替える。目の前のこいつを即座に殺す。そうすれば魔法は止まり、これ以上の被害は防ぐことが出来る。得られたかもしれない情報は惜しいが僕の配下の価値の方がずっと上。


 すべての魔道具を活動値の限界まで発動させる。急激に消費される魔力に少しばかりの倦怠感を覚えるが、今は目の前のこいつを何とかする方が先だ。


 奴が視線を僕の部下たちの方に向けた、その一瞬の隙を突いて距離を一気に詰める。先ほどと違い反応する素振りは無し。奴の心臓に剣を突き刺す。傷口から飛び散った血が僕の顔を濡らし、勝利を確信した。

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