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 「まさか僕たちの警戒網を抜けて、地下聖堂の奥にある贖宥の間に侵入する罪深き者がいるとはね。悔しいが僕の予想が当たっていたみたいだ。サンダーク卿ほどの強者がヴァンパイア如きに後れを取るとは思えないけど、早く結界を展開し直す必要はあるだろうね」


「はい。ですが『教会』には王都に展開している結界よりも強力な結界が展開されていたはずです。それは結界に近づけば近づくほどより効力を増します。仮に奴らが我らの目を盗んで地下聖堂に侵入出来たとしても、結界を展開している魔道具に近づくことすら困難なはずでは?」


 「そうなると…もしかしたら本部から派遣された研究員の中にヴァンパイアの手先が紛れ込んでいたのかもしれないな」


 「主より多大なる自愛を賜っている我ら人間種を裏切るものが存在していると、そうおっしゃられるのですか!?」


 「落ち着きなよ、あくまで仮定の話さ。それに『教会』と言っても一枚岩ではないからね。悲しいことに、僕たちの足を引っ張ろうとする勢力も存在していることも事実だ」


 「ですがベルサレム卿、私には信じることが出来ないのです。我ら『人間』は絶対なる神によって選ばれた種族。にもかかわらず、我らを裏切り、汚らわしいヴァンパイアに味方するような罪深き存在がいるという事実が!」


 「無論、僕だって信じたくはないさ。ま、この先の贖宥の間に行けば誰が犯人なのか分かる事。それがヴァンパイアなのか、『教会』の敵対勢力なのか。しかしそれは今考えることではない。今僕たちに求められていることは、犯人を無力化し停止させられた魔道具を再び起動することだ」


 そうは言ったものの、やはり侵入者の正体が気にはなる。地下聖堂の奥へと進む経路にはそれなりに腕の立つテンプルナイツ達が配備されていた。無論、僕ほどの強さを持ち合わせてはいないが冒険者で言うところのミスリル級程度の強さは持っている。


 しかし先ほどその場所を通り過ぎた時、そのテンプルナイツ達の姿が無かった。侵入者の正体がヴァンパイアであるなら、殺され、血は抜かれていても死体すら存在しないという状況は考えられない。


 となると、この場所を守っていたテンプルナイツ達が僕たちを裏切り、結界を停止させたという事か?いいや、それはあり得ない。あの者達はサンダーク卿によって見出された、信仰心の強い選ばれし者達だ。ヴァンパイアに降伏するぐらいなら、喜んで死を選ぶはずだ。


 全く…侵入者の正体は一体誰なんだ。ホント、分からないことだらけだ。…いや、分からない事と言えば、人の気配を一切感じないこともそうだと言える。


 本来ならこの地下通路付近は、結界の魔道具の整備員も含めて多くの研究員が詰めている。無論、贖宥の間までは一本道ではなくいくつも枝分かれした複数の道によって構成されているから、離れた場所にいれば気配を感じないという事もあるのかもしれない。


 それでも、これほどの人数で移動していればその足音に驚きこちらの様子を窺いに来る研究員がいてもおかしくはない。


 考えられるとすれば、すでにここの研究員全員が殺されたということだ。連れ去られたという事は流石に無いだろう。僕達に気が付かれることなく、あれほどの数の人を移動させることは不可能だ。殺されていたのだとしてもその死体を一体どこにやったのかという疑問が残る。襲撃者が死体を隠すこと自体がおかしいわけじゃない。死体を隠すことによって事件の発覚を遅くすることが出来るからだ。


 ……まぁいい。この先にいる襲撃者を捕らえ、情報を引き出せばそれですべてが解決する。襲撃者に逃亡の意志はないようだ。贖宥の間にある気配に、動く様子は見られない。結界を停止するという目的を達成したことで、それに満足し己の死を受け入れているのか、それとも僕たち全員を相手取って勝つ自信があるとでもいうのか。


 ま、普通に考えたら前者だろう。しかし、己の死を受け入れているのなら情報漏洩を防ぐため自死する可能性もあるか。そうなると、後の調査が色々と面倒なことになる。だったら、業腹ではあるけど最初は交渉によって自死を止めさせなければならないということになる。そうすることで気を引き、ある程度距離を詰めることが出来れば僕が襲撃者拘束、無力化することが出来るはずだ。


 全く…僕をここまで苦悩させたんだ。簡単に死なせるわけにはいかないじゃないか。情報を引き出した後も、生まれてきたことを後悔するだけの罰を与えてやらないと気が済みそうにないよ、まったく。

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