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 ………見つけた。捕らわれていたヴァンパイア達だ。恐らくは生きてはいるんだろう。死んでいれば魔力を抽出することが出来ないからな。ただそれは、死んでいないだけ。本当にそれだけの状態であったのだ。


 四肢は根元で切断され、特殊な方法で施術を施したのか高い再生力を持つヴァンパイアでありながら回復する様子がまるでない。目はくりぬかれていた。鼻と耳は削ぎ落されており、顔の上半分が瘢痕のようなもので塞がれている。


 顔の下半分も酷いものだ。下顎が切り落とされ、上顎に生えていたと思われる歯もすべて引き抜かれている。そんな凹凸もない、かつて口であった部分から喉の奥へと太い管の様な物が通されている。多分この管から『血』を注ぎ込み、生き永らえさせることで『これ』から魔力を抽出しているのだろう。


 無惨に残った胴体にも幾本もの管が突き刺さっており、その管が近くにある大きな装置に繋がれている。先ほど『同化』した研究員から獲得した情報で知った、これが対ヴァンパイア用の結界を展開している魔道具だ。


 一応『これ』に声をかけて意識があるのか確認をする。が、当然何の反応も返ってこない。いや、そちらの方が救いがある。この状態で何十年も意識を保ったままであるならば、そちらの方が惨劇であると言わざるを得ない。


 『彼ら』の開放に心血を注ぐエルメシア様にありのままを報告するのはかなり気が引けたが、報告しないという判断をとれるはずもない。短い逡巡のあと目の前の光景を一切脚色することなく、正直に報告することにした。


 「どうかしましたか?ゼロ。捕らわれていた、我らの同胞を見つけることが出来ましたか?」


 声に僅かだが喜色を感じ取ることが出来た。報告することに躊躇する。それでも…


 「見つけることは出来ました。ですが…」


 彼女は俺の報告を遮ることなく最後まで黙って聞いていた。話し終えると小さな嘆息をつき、どこか縋るような面持ちで『分体』に質問を投げかけて来た。


 「彼らの体に、身体に回復の見込みはありますか?」


 「ありません。切断された部位を少し切ってみましたが、切断された状態に回復しました。この状態が正常であると体が認識してしまっているのか、もしくは、何らかの方法で認識させられているのか…」


 研究員の知識にも彼らを回復させる、役に立ちそうなものは一つもなかった。当然だ。俺が『同化』した研究員がこの『教会』に派遣された時点で、すでに『これ』はこの状態であったからだ。仮に当時の記録があったとしても、『教会』の連中がわざわざヴァンパイアを回復させる術を研究しているとは到底思えない。


 「そうですか。…では、意識の方はどうでしょうか?」


 「そちらのほうも絶望的としか。持ってきていた血液を彼らの口内に注ぎこんでみましたが、一切の反応はありませんでした。言い方は悪いですが、言葉を飾らずに言わせてもらいますと、もはや魔道具の一部に成り果ててしまった…そんな印象を受けます」


 「………分かりました。この場を片付けてそちらに向かいます。結界を展開している魔道具を破壊しておいて下さい」


 「了解です」


 彼女の冷たい物言いに、怒りを通り越して無になった、そんな印象を受けた。この国いる『教会』の連中の未来が決定づけられた、そんなことを感じた瞬間だった。


 とりあえずこの場所にある魔道具をすべて破壊し、『元』ヴァンパイア達を丁寧に一か所にまとめて寝かせておくことにした。体に突き刺さっているすべての管を引き抜いてみたが、繋がれていた場所の傷も塞がる様子は見られない。傷口から生々しい肉と骨が見えており、それが彼らが生物であった唯一の名残であったように感じた。そして、そんな状態でありながら痛がる素振りが一切ないことに同情を禁じえなかった。


 そんな事を思いながら作業をしていると、接近する魔力を感じた。


 これは…エルメシア様ではない。こちらに来るにしても、流石に来るのが早すぎる。ベルサレム卿と呼ばれていた『ドミニオン』と、その配下の『テンプルナイツ』達だろう。魔道具が破壊された事を何らかの方法で知ったのかもしれない。


 あいつらが来襲することは想定済みであり、大聖堂から地下聖堂へと続く道に置いてきた警備兵に『擬態』させておいた『分体』の『擬態』を解除し、その辺の装飾品に再び『擬態』させておいた。強さからしても、こいつらが戦っても碌に時間稼ぎすることもできない。ならば、わざわざ殺させるのはもったいないからだ。…殺されるという表現が正しいのかどうか分からないが、それは置いておこう。


 まぁ、無機物に化ける。『ミミック・スライム』が持つ本来の『擬態』の使い道だ。ここにきてようやく本来の使い方が出来たと、少しだけ感慨深いものがあった。しかし感傷に浸るだけの時間は残されてはいない。


 『元』ヴァンパイア達に配慮して、彼らを置いた場所から少し離れた場所で敵を待ちかまえることにした。戦闘の余波でこれ以上彼らを傷つけるのは、俺としても避けたかったのだ。

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