233
「本音を言わせてもらえば今回の件、ヴァンパイア側の考えが甘すぎたと言わざるを得ませんね。もちろんヴァンパイア達に同情していますが、それとこれとは別の話でしょう」
「耳が痛い話ですね。ですが我々としても、まさかこのような形で裏切られるとは思ってもいませんでした。そしてその結果として、同胞の失踪に関しても手遅れになってしまった…」
軽く注意するつもりで、ひと言釘を刺しておこう。そんな軽い気持ちで発した言葉を思ったよりも深刻に受け止められてしまった。これじゃ、俺が悪者みたいだ。思わず慰めの言葉も口にする。
「し、しかしあのタイミングでオスマニア帝国が裏切るとは想像できないのが普通でしょうからね。やはり裏には『教会』の工作があったという事でしょうか?」
「我らはそう見ています。ですが…だからと言って、この国に罪が無いとは思えません。何らかの形で責任をとってもらうつもりです。…貴方はそれを批判しますか?」
「まさか。むしろこれまで何もしてこなかった今迄の対応の甘さの方を批判したいぐらいです。その結果としてつい先日あなた方の同胞が『テンプルナイツ』に襲われるなんて事件が発生したわけですから。下手をしたら、新たな犠牲者が出ていたかもしれない」
まぁ、その襲撃事件があったから今回の件の発覚に繋がったわけだから一概に批判することも出来ないか。それでも当時何らかの報復に出ていれば、オスマニア帝国に捕らえられていた魔道具の技師の発見、救出は出来たかもしれない。とは言え、過去を悔いても仕方がない。それは俺にも言えることだ、大事なのはこれからの身の振り方だ。
「それで、あなた方の同胞の解放作戦、どのように進めていくのか決まっているのでしょうか?」
「おおよそは。私の配下に王都内部で暴れてもらい、そこに注意が向いた隙に私が『教会』の地下に捕らわれている同胞の開放をするという、力任せの作戦ですね」
「下手に策を弄さずとも、あなた方ほどの強さがあればどのような障害も簡単に食い破ることが出来そうですね。でも確か…」
「はい。ゲオルグにもたらされた情報によって判明したことですが、『教会』にはこの王都を覆う結界よりも強力な結界が展開されています。範囲が狭い分それが可能になったのでしょう。同胞よりも遥かに強い力を持つ私と言えど、簡単には作戦は上手くいかないのではないかと思われます」
俺がヴァンパイア達から一定の信用を得られたのは、この情報をすんなりと渡したことにあるんじゃないかと思っている。
俺が『教会』側ならその情報を絶対に渡さない。都市に展開されている決壊の強さに油断して、攻め込んできたヴァンパイアを捕らえる絶好のチャンスだからだ。そしてどちらの勢力にも属さない、漁夫の利を得ようとする第三者ならこの情報を隠匿して、『教会』と『ヴァンパイア』の戦いをより混迷化させ両者が疲労した絶好のタイミングで行動に移すはずだ。
さらにその情報の中に『教会』側の強者の情報も含まれていた。それが『テンプルナイツ』の中でも特別な強さを持つと言われる『ドミニオン』と呼ばれる13人の騎士たちの存在だ。
この『ドミニオン』は他の騎士とは違い実績やキャリアでなく、己の強さのみで拝命され、構成員全員が『アダマンタイト級冒険者』以上の強さを持っている、まさに『教会』が誇る最強の戦力集団だ。
その『ドミニオン』の内2人が現在オスマニア帝国の『教会』に配属されている。目的はヴァンパイアを捕らえ、結界の魔道具の動力源とすることだろう。今はまだ積極的に動いている様子は見られないが、十分な準備が整えばヴァンパイアの国に侵攻を仕掛けてくるかもしれない。
当然『教会』もヴァンパイアの国の戦力をある程度は認識しているはずだから、準備には十分すぎるほどの時間をかけるはずだ。もしかしたら対ヴァンパイア用の結界を今のように定点設置用から『移動可能な状態』にまで改良してくるかもしれない。
ここまで考えてふと思いだしたのが、どうして『教会』が『ヴァンパイア』の目撃情報の噂の収束を図ったのかという事である。
恐らくだが、ヴァンパイアは生かして捕えないと結果を展開する魔道具の動力源に出来ないからではなかろうか。冒険者なら容赦なく殺すだろうからな。そう考えると辻褄が合う。ヴァンパイアは生かして捕らえ、動力源にする。それが『教会』の意向であるようだ。『ドミニオン』が2人もいれば戦力的にも何の不安もないはずだ。
「ですので、『教会』に侵入する役割は俺に任せてもらっても構いませんよ」
「よろしいのですか?」
「勿論です。ただこちらもそれなりに高いリスクを負うので、それに見合った対価が欲しいですね」
ヴァンパイアに同情はするが、だからと言ってタダ働きはしない。まぁ、彼女たちからしてもそれは織り込み済みだろう。むしろ何の対価もなしに危険な仕事を引き受けるほうが怪しいと言えるはずだからな。貰える物は貰っておく、それが俺のポリシーなのだ。




