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 「貴方が我らに協力して下さる意思があるとのことですが、貴方はその対価として何を望むのでしょうか?」


 そんな疑問を口にしたエルメシア様。まぁ、俺だっていきなり目の前に「お前の復讐を手伝ってやる!」なんて言うやつが現れても、すぐには信用できないからな。警戒するのは当然の反応だ。


 「その話は後にしましょう。その前に1つ、ヴァンパイアの皆様に謝罪しておかなければならないことがあります。この件を話すことで、私は皆さまに私の能力の1部と私の正体を伝えます。それが私なりの誠意の証と受け取ってもらえればありがたいのですが」


 そう前置きしたうえで、『分体』の『擬態』を解除し俺の正体がスライムであること、ゲオルグ君の遺体を吸収したことを伝えた。自分から正体を明かしたという事もあってか、急に怒りだしたり分体に襲い掛かってくる人はいなかった。


 俺が話し終わるまで黙って聞いていたエルメシア様が口を開く。


 「スライムがそこまで出来るほどの力を手に入れたというのは少々信じがたい事ではありますね。ですが貴方がそのような嘘をつくとも思えませんね。私達を騙すつもりなら、もっと説得力のありそうな嘘をつくでしょう」


 「俗にいう『特殊個体』のスライムというやつですよ。残念ながら、俺以外の『特殊個体』の魔物に出会ったことがないので確証はありませんがね」


 「なるほど、通りで。魔物でありながら人間のような考え方をされているのかも、得心が行きました。そうなると、我らに求めるのは『復讐』を成し遂げるための強さ…つまり経験値を得るという事ですね?」


 「……『通りで』?すみません、先程の話の流れで、どうしてそのような考えに至ったのでしょうか?」


 「おや、違いましたか?『特殊個体』という事でしたので、てっきりそうかと思ったのですが」


 「違う、わけではないです。確かに俺は強さを求めていますが…しかし、どうしてそのことが分かったのでしょうか?」


 「貴方は『特殊個体』と自分のことを呼称しました。つまり貴方は『元人間』という事なのでしょう?」


 「…!それは『特殊個体』という呼び方を俺が知っていたからそう思った、という事なのでしょうか?」


 「いえ、そうではありません。以前に貴方と同じ境遇の方々と会った事があるのです。前世が人間であり、死後魔物に生まれ変わったという境遇の方と」


 そこからのエルメシア様の話は驚愕の連続であった。何でも強い恨みや憎しみがある人間が死んだとき、極稀にではあるが人間であった頃の記憶を保持したまま、特殊な能力を持った魔物に転生するという事があるのだそうだ。その最たる例が、俺も聞いたことのある『ゴブリン』の『特殊個体』の話だ。


 彼女はその特殊個体のゴブリンとも会ったことがあるらしく、その時にその『ゴブリン』の境遇について話を聞いていたのだそうだ。


 「彼と出会ったのは本当に偶然でした。彼自身、色々とため込んでいたものがあったのでしょう。周りはあまり知性の高くない魔物で占められていましたので、まともに会話が出来る相手というものがいらっしゃらなかったそうですから。前世の事も含め、色々と話して下さいました」


 そう話す彼女はどこか過去を懐かしむような表情をしていた。しかしどこかで、悔いるような表情もしていた。


 「……ちなみに、どのような話を?」


 「よくある話だそうです。貴族に妻と娘を攫われ、慰み者にされてしまった。自分も妻と娘の亡骸を獄中で見せられた後、その貴族に拷問の末に殺されてしまったのだと」


 「…なるほど。確かに強い恨みがありそうですね。ちなみにそのゴブリンさんの復讐の結末はどうなったのですか?」


 「無事に成功したそうです。ですが彼は復讐を成し遂げた後のことを考えてはいなかったのでしょう、その後あっさりと冒険者に討伐されてしまいましたから」


 そのゴブリンの気持ちは痛いほどよく分かった。話を聞くとそのゴブリンさんは指揮系統に特化した能力と、配下が獲得した経験値の一部を己のモノと出来る能力を持っていたのだそうだ。つまり数々の兵士を返り討ちにした罠などに関しては、彼の前世、つまり人間であった頃の知識が役に立ったという事なのだろう。


 彼と俺の大きな違いは、彼は自分が人間であった頃に住んでいた場所と、それほど離れていない場所で魔物に生まれ変わったこと。そして彼は転生後すぐに行動に出て、あっという間に復讐を成し遂げることが出来るだけの力を手に入れることが出来たということだ。


 つまり俺とは違い、精神的に回復するまでの時間は十分に無かったという事だろう。復讐を成し遂げた後の虚無感から、反撃に出た冒険者にあっさりと討伐されてしまったのだ。討伐されたと言うより自殺に近いのかもしれないと思った。


 確かに『特殊個体のゴブリン』の話を聞いたとき、あっさりと奇襲が成功したことに疑問を抱いていたが、まさかこのような形でその疑問が解消されるとは思ってもいなかった。

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