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 「2日前、ゲオルグとの連絡が途絶えました。奴は『テンプルナイツ』の連中に追われていたとの情報があります。もしかしたらすでに…」


 「くそっ!だからあんな半人前に、こんな危険な任務を任せるんじゃなかったんだ!あいつの…あいつのツレになんて報告したらいいんだ…!」


 「このような危険な任務を彼に任せるべきではなかった。…すべては責任は私にあります。やはりこの任務は、私が直々にこなすべきでした」


 「そ…そんなことありません!エルメシア様の責任などと…この任務は私たちの反対を押し切って奴が自分から進んで受けたのです!決して、決してエルメシア様のせいではありません!」


 「ですが最終的な決定を下したのは間違いなく私です。今回の1件に決着がついたとき、その時は何らかの形で責任をとることにしましょう」


 と言った会話から始まったヴァンパイア達の集会。ここはオスマニア帝国、王都、ガブルレストの貧民街にある小さな一軒家だ。王都に住む貧民たちが居住する家々で過密化しており、その入り組んだ町並みはいざという時にでも逃げやすい状況を作り出していた。


 先程から責任感の強そうな発言をしている彼女『エルメシア』様という方は、名前を『エルメシア・アリアンヌ』と言い、ヴァンパイアの国でも7人しかいない『トゥルー・ヴァンパイア』とかいうヴァンパイアの進化種で、現在王都に侵入しているヴァンパイア達のリーダー的な存在である。


 実力もあれば名声もある彼女に付き従うヴァンパイアは現在12人しかいない。数が少ないのはヴァンパイアの国で彼女らに対し何らかの妨害があったというわけではなく、単にこの王都に展開されてある結界に耐性を持つのが13人しかいなかったことが原因である。


 ちなみに最後の1人はゲオルグ君だ。『教会』の内部情報を漁っていた。そこを警備中の『テンプルナイツ』に運悪く発見されてしまい命からがら王都の外にまで逃げだすことは出来たが、追撃部隊を躱すことまでは出来なかった。


 逃げ切るのは不可能と悟り何とか反撃に出ようとしたが、そのまま殺されてしまった。殺されてしまったのはいただけないが、彼の頑張りは称賛に値するだろう。王都に展開されている結界に耐性があるとはいえ、ある程度は行動を阻害されてしまう。そんな状況でありながら王都の外までは逃げることが出来たのだから。


 もし王都内で殺されてしまえば、即座に王都に侵入できる『ヴァンパイア』がいると『教会』側に知られてしまっただろうからな。それを防いだだけでもかなりの功績と言えるだろう。まぁ、彼がヘマをしなければ『テンプルナイツ』に追われるという事もなかったとは思うが。


 ちなみにそのヘマの原因はゲオルグ君が功を焦ったことだ。エルメシア様に窘められていたというのにな。若さゆえの過ちというわけだ。…まぁ、彼の実年齢は俺よりも遥かに上ではあるが、ヴァンパイアとすれば若輩者だ。


 『ヴァンパイア』という種は自身を追い込んでまで、強くなるための鍛錬するという習慣がないそうだ。ほどほどの努力をしてゆっくりと強くなる。寿命が無いので、焦って強くなる必要が無いともいえるだろう。


 そうでなくても肉体の基本スペックとして、獣人以上の身体能力にエルフに匹敵する高い魔力を持つ。おまけに体を霧状に変化させることも出来るし、人の血液を摂取すれば瞬時に傷を癒すことも魔力を回復することも出来る、まさに生れながらの強者と言える種族だ。種の数を増やすことが困難なこと以外、これといった弱点は存在しない。


 そんなんだから頑張って努力して、強くなろうという意思があまりないのかもしれない。今回彼が敗北した理由は生まれながらの強者故の傲りともとることが出来る。しかし当然例外もいる。その最たる例が、今俺の『分体』の目の前にいるエルメシア様だ。


 彼女はヴァンパイアでありながら『人間』のように鍛錬し己の『武』を極めているのだそうだ。基本スペックが高いくせに強くなるための努力をする。これで弱いわけが無いのだ。


 俺の見立てでは彼女の強さは『アダマンタイト級冒険者』を優に超え世界でも数人しかいないとされる『オリハルコン級冒険者』と同等、もしくはそれ以上の強さを持っていると予想される。


 そんな彼女がどうしてこんな場所で作戦を練っているのか。1人でも十分に王都を灰燼に帰すことも出来そうだが…恐らくは俺が思う以上にこの国に展開されている結界がそれだけ強力であるということなのだろう。もしくは、流石に1人でこの国の兵士と『教会』の戦力を相手取るのは難しいと見たか。


 はてさて、どうしたものか。そんな考えをしながら彼女らの会話に耳を傾けていると、どうやら話が一区切りついたみたいだ。


 「では、ミハエルとエミールは計画の修正を行い、先程指示した通りに動いてください。残りのメンバーは従来の行動方針のままでお願いしますね。それと最後に…そこで私たちの会話をずっと聞いていた貴方。貴方の正体をお伺いしてもよろしいですね?」


 そう言って、俺の分体がいる方をじっと見てくるエルメシア様。ないはずの心臓がドキリとした感じがした。まさか最初から俺の存在に気が付いていたのか?それとも俺以外の、他にヴァンパイア達の会話を盗み聞きしていた奴がいた…とは思えないか。


 実際、『索敵』を使っても俺たち以外の反応は無い。俺の『索敵』を上回る隠密能力でもあれば別だが…ありえないな。俺の存在に気が付いていたという可能性の方がはるかに高いだろう。しかし、どうしたものか。ネズミの演技を続け、無視するのも…良くないよなぁ。

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